[M-IS30] 遠洋域の進化

[MIS30-09] 日本近海に存在したジュラ紀海洋性島弧

*植田 勇人¹ (1.新大・理)

キーワード：海洋プレート古地理, ジュラ紀, オフィオライト, 海洋性島弧

中央北海道の空知－エゾ帯はオフィオライト質岩類（空知層群や幌加内オフィオライト）を基盤としており，その起源が未解決であることが海洋プレート古地理の復元や西南日本との地帯構造区分の対比など多くの課題の根底にあると思われる．本発表では，空知－エゾ帯南端部，三石蓬莱山地域に分布する軍艦山オフィオライトの岩石学的性格から，ジュラ紀に海洋性島弧（およびそれを擁した縁海プレート）が存在した可能性について議論する．
　三石地域は古くから，神居古潭帯の高圧変成岩塊を含む蛇紋岩メランジが，新第三系に囲まれて分布することで知られてきた．これまでの調査で，当該地域では低度高圧変成を受けた付加体，軍艦山オフィオライト，および蛇紋岩メランジが断層を介して帯状に並列し，これらを不整合で覆う新第三系とともに褶曲して背斜の核を構成する構造が把握された．軍艦山オフィオライトは深成岩－半深成岩複合岩体，超苦鉄質集積岩，および部分的に蛇紋岩化したハルツバーガイトで構成される．オフィオライトの層序は分断され，小規模なスラブ状岩体の集積として捉えられる．噴出岩や堆積岩は見られない．
深成岩－半深成岩複合岩体は，おもに苦鉄質のキュムレートと岩脈類から構成され，一部に優白質閃緑岩～トーナル岩質の岩脈や小岩体を伴う．これら珪長質岩からは160-165 Ma（ジュラ紀中世末～新世初頭）のジルコンU-Pb年代が得られている．今回，火成岩類について全岩組成を検討した結果，トーナル岩がデイサイト質であるほかは玄武岩質安山岩組成であり，TiO2などのHFS元素に乏しいなど，島弧火成岩の特徴を示し，一部はボニナイトの組成を示す．大陸性の基盤の存在を示唆する岩石が一切見られないことも考慮すると，軍艦山オフィオライトは，ジュラ紀に形成された未成熟な海洋性島弧である可能性が高いと思われる．この島弧は現在の分布からみても，秩父帯や北部北上帯～渡島帯の付加体が形成されていた海溝より海側に存在したと推察される．そしてこの島弧は，ジュラ紀付加体やイドンナップ帯前期白亜紀付加体，および神居古潭帯の青色片岩類を形成した三畳紀（かそれより古い）海洋プレートとは別のプレートであった可能性が高い．
空知－エゾ帯には，同じジュラ紀オフィオライトとして空知層群下部（幌加内オフィオライトを含む）が広く分布する．これらを構成する苦鉄質岩はMORBないし海台玄武岩に類似した組成を持ち，島弧的な要素は見られない．軍艦山オフィオライトと幌加内オフィオライトの成因関係は不明であるが，同時代性や構造的な位置の類似から同一のプレート起源である可能性を検討する価値がある．そのような観点から，両者は島弧と背弧海盆の関係にあったとする仮説を立てられるかもしれない．