10:39 〜 10:42
[PPS21-P14] 衝突貫入シミュレーションのための圧縮性非膨張性流体ソルバーの開発
ポスター講演3分口頭発表枠
キーワード:衝突, 数値シミュレーション, 流体力学, リーマンソルバー
天体の表面に衝突し、地下に貫入することで内部探査を可能とするペネトレータは、小型ミッションによる月・惑星探査で有用な技術と期待される。その開発には、天体表面に衝突、貫入するダイナミクスの解析モデル構築が必須である。極超音速飛行体の空力特性推算用であるニュートン流理論をベースとした荷重モデルが月ペネトレータの貫入軌道を良く予測できること(Suzuki, et al., 20th ISTS, 96-i-02V, 1996)や、同様なモデルが氷をターゲットとしたペネトレータでも有効であること(Suzuki, et al., 30th ISTS, 2015, to be presented)は、機体まわりのレゴリスや破砕された氷片の挙動がマクロな流体として近似できることを示唆している。しかし、これらの流れにおいて、負荷による圧縮は発生するものの、除荷や真空にさらされた際に膨張は起こらない。これは、通常の圧縮性気体の力学と異なり、構成粒子のランダムな熱運動が存在していないためである。ここでは、ペネトレータ貫入や天体衝突現象への適用を目的として、「圧縮性非膨張性流体(Compressible and Non-Expanding Fluid)」モデル(以下、CNEFモデル)を考案し、その数値シミュレーションのためのリーマン解法を試作した。これを用いた衝突問題の数値解を示し、この流体モデルの性質について考察していく。
衝突を流体問題として数値解析する手法としては、SPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)法が知られている。SPH法は、連続体の大変形や高速破壊を表現し得る点でこの種の衝突シミュレーションに適しており、ゴドノフ法の適用などにより計算の安定化も図れる(難波他, 第28回数値流体力学シンポジウム, D02-2, 2014)が、粒子法であるため、計算効率が悪く、また、全てが粒子で表現されるため、突入体やターゲット容器箱の表面など、剛体面の扱いに問題がある。CNEFの数値解析には有限体積法を用いることとした。
レゴリスや細かい氷片群では、粒子間のばらつきや不均一性が大きいと思われるが、それらを無視し、マクロな流体として考える。CNEFモデルと通常の圧縮性気体の違いは、膨張に対する挙動にある。気体の場合、減圧や真空開放によって膨張し密度が低下していくが、固体粒子群の場合、これらの除荷があっても膨張は起こらない。ここでは、理想的な場合として、除荷によって密度を保ったまま、圧力が瞬間的に0に落ちるものとする。このような流体では、衝撃波はできても膨張波はできず、その代わり、物質と物質の間で空隙の発生を許容する。粒子間の衝突や摩擦による粘性や拡散を無視すると、CNEFのダイナミクスは、通常のオイラー方程式(質量と運動量の保存則)で記述される。簡単のため圧力は密度のみの関数とするが、上記のように負荷と除荷によって値が異なるため、もはや状態量ではないことに注意する。CNEFは真空と共存できるため、物質の境界を扱う必要があるが、ここではVOF法(Hirt, C. W. and Nichols, B. D., J. Comp. Phys., 39, 1981)を用い、各セルにおける物質の体積占有率を補助変数として導入する。この式を有限体積法で離散化して解くことになるが、ゴドノフ法を適用する際にリーマンソルバーが必要となる。基本解のパターンとしては今のところ、(a)真空中の物質移動、(b)追突による前後2つの衝撃波の発生、(c)追突により前方物質が先行し、間に除荷領域が発生、(d)前方物質の速度が速く、前方後方間にすき間が発生、の4ケースを見出している。今後、新たなパターンが見つかる可能性はある。
CNEFに対するリーマン問題について、全ての基本解を得たという保証はないが、負荷中の圧力変化が密度変化に比例する(つまり音速一定)することを仮定し、基本解の解析解を求め、ゴドノフ法によって数値解析に適用した。1次元正面衝突問題を数値解析したところ、真空中を進む2つの流体が衝突し、膨張することなく1体化するなど、CNEFモデルが期待した性質を持っていることを波動線図上で確認した。今後、計算例を増やし、その数学的妥当性を検証しつつ、実際の衝突問題に適用するための改良を加えていく。
本研究は、科学研究費補助金(基盤研究(B) No. 25289301)の支援を受けて行われた。ここに感謝の意を表する。
衝突を流体問題として数値解析する手法としては、SPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)法が知られている。SPH法は、連続体の大変形や高速破壊を表現し得る点でこの種の衝突シミュレーションに適しており、ゴドノフ法の適用などにより計算の安定化も図れる(難波他, 第28回数値流体力学シンポジウム, D02-2, 2014)が、粒子法であるため、計算効率が悪く、また、全てが粒子で表現されるため、突入体やターゲット容器箱の表面など、剛体面の扱いに問題がある。CNEFの数値解析には有限体積法を用いることとした。
レゴリスや細かい氷片群では、粒子間のばらつきや不均一性が大きいと思われるが、それらを無視し、マクロな流体として考える。CNEFモデルと通常の圧縮性気体の違いは、膨張に対する挙動にある。気体の場合、減圧や真空開放によって膨張し密度が低下していくが、固体粒子群の場合、これらの除荷があっても膨張は起こらない。ここでは、理想的な場合として、除荷によって密度を保ったまま、圧力が瞬間的に0に落ちるものとする。このような流体では、衝撃波はできても膨張波はできず、その代わり、物質と物質の間で空隙の発生を許容する。粒子間の衝突や摩擦による粘性や拡散を無視すると、CNEFのダイナミクスは、通常のオイラー方程式(質量と運動量の保存則)で記述される。簡単のため圧力は密度のみの関数とするが、上記のように負荷と除荷によって値が異なるため、もはや状態量ではないことに注意する。CNEFは真空と共存できるため、物質の境界を扱う必要があるが、ここではVOF法(Hirt, C. W. and Nichols, B. D., J. Comp. Phys., 39, 1981)を用い、各セルにおける物質の体積占有率を補助変数として導入する。この式を有限体積法で離散化して解くことになるが、ゴドノフ法を適用する際にリーマンソルバーが必要となる。基本解のパターンとしては今のところ、(a)真空中の物質移動、(b)追突による前後2つの衝撃波の発生、(c)追突により前方物質が先行し、間に除荷領域が発生、(d)前方物質の速度が速く、前方後方間にすき間が発生、の4ケースを見出している。今後、新たなパターンが見つかる可能性はある。
CNEFに対するリーマン問題について、全ての基本解を得たという保証はないが、負荷中の圧力変化が密度変化に比例する(つまり音速一定)することを仮定し、基本解の解析解を求め、ゴドノフ法によって数値解析に適用した。1次元正面衝突問題を数値解析したところ、真空中を進む2つの流体が衝突し、膨張することなく1体化するなど、CNEFモデルが期待した性質を持っていることを波動線図上で確認した。今後、計算例を増やし、その数学的妥当性を検証しつつ、実際の衝突問題に適用するための改良を加えていく。
本研究は、科学研究費補助金(基盤研究(B) No. 25289301)の支援を受けて行われた。ここに感謝の意を表する。