日本地球惑星科学連合2015年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG59] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*桑野 修(独立行政法人海洋研究開発機構)、大内 智博(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、清水 以知子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、石橋 秀巳(静岡大学大学院理学研究科地球科学専攻)

18:15 〜 19:30

[SCG59-P10] 熱水条件下におけるかんらん岩の高圧変形実験:リソスフェアの強度弱化における含水反応の効果

*福島 久美1平内 健一1木戸 正紀2武藤 潤2 (1.静岡大学大学院理学研究科地球科学専攻、2.東北大学大学院理学研究科地学専攻)

キーワード:かんらん石, 斜方輝石, 滑石, 含水反応, 強度弱化, 沈み込み開始

沈み込みはトランスフォーム断層などの既存の弱面を元にして発生すると考えられているが,この弱面の強度は数値モデルによると摩擦係数が0.05以下であることを必要とする.これは深度30 kmにおける断層強度が50 MPa以下であることを意味する.しかしながら,かんらん石の摩擦強度,転位クリープから推定される強度は約700 MPaとなり,しきい値を大きく逸脱する.これまでに,断層強度を低下させるメカニズムとして,流体やメルト,拡散クリープ,蛇紋岩化などが候補に挙げられてきた.蛇紋岩化はかんらん岩が水と反応することによって生じ,トランスフォーム断層などの海洋マントルまで海水が入り込むことが可能な領域で起こる.これまでの変形実験では,蛇紋石がかんらん石と比較して様々な温度圧力条件において強度が低いことを明らかにしている.しかしながら,高温高圧下におけるかんらん岩の含水反応のカイネティクスやかんらん岩の強度が含水反応の進行に伴ってどのように変化するのかについては,ほとんど明らかになっていない.
そこで本研究では,Griggs型固体圧式変形装置を用いて熱水条件下でかんらん岩ガウジの単純剪断変形実験を行った.出発物質はサン・カルロス産かんらん石とタンザニア産斜方輝石の粉末試料を用いて,ハルツバージャイトを想定した7:3の割合で混合した.実験条件は温度500℃,封圧1.0 GPaで,一定の剪断歪速度(剪断歪速度5.9×10-5~4.3×10-6 s-1)で行った.その結果,全ての剪断歪速度条件下において応力-歪曲線は同様の挙動を示した.まず,弾性変形が起こり最大剪断応力(350~400 MPa)に達した後,10~120分間かけて応力が60~150 MPa降下した.その後定常状態の変形がしばらく続くが,1回目と比較してゆっくりとした応力降下が再び起こり定常状態に至った.さらに最終的な強度は剪断歪速度の低下に伴い減少し,最も遅い剪断歪速度(4.3×10-6 s-1)における最小強度は30 MPaとなった.実験後の試料には剪断歪量の増加に伴いR1面,B面,Y面などの複合面構造が発達していた.また,変形後の試料では出発物質粒子が粒子間結合していた.剪断面近傍では出発物質の粒径減少が認められ,粒界を埋めるように滑石が生成していた.さらに,剪断面にも滑石は生成し,生成量は変形時間あるいは剪断歪量の増加に伴い増加した.
実験初期においてガウジ試料は溶解-沈殿プロセスにより粒子間結合が生じるため強度が増加し,その後,強度が臨界点を超えると局所すべりが発生すると考えられる.1回目の急激な応力降下の間,剪断歪速度は増加していることから,不安定すべりが起こっていたと考えられる.また,2回目の緩やかな応力降下は剪断面に沿った滑石の生成および増加に起因すると考えられる.本実験において蛇紋石ではなく滑石が生成した理由として,400℃以上の高温下において斜方輝石がかんらん石と比較して優先的に溶解し,「斜方輝石 → かんらん石 + SiO2」および「斜方輝石 + SiO2 + H2O → 滑石」という反応が連続して起こったことに起因すると考えられる.本実験における最小強度(30 MPa)は深度30 kmを想定したかんらん石,蛇紋石の摩擦強度と比較して低く,摩擦係数が0.05以下である沈み込み可能強度である50 MPaの範囲に収まる.天然におけるハルツバージャイトにおいても,滑石が生成する反応は斜方輝石を完全に消費するまで起こり,その後は蛇紋石が形成されると考えられる.このことから本研究における反応プロセスは含水反応初期にみられるプロセスであると考えられる.したがって,高温高圧下における断層強度の初期の弱化プロセスにおいて,かんらん岩の熱水反応による滑石生成の影響が示唆される.