日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM26] 宇宙プラズマ理論・シミュレーション

2015年5月24日(日) 11:00 〜 12:45 302 (3F)

コンビーナ:*梅田 隆行(名古屋大学 太陽地球環境研究所)、天野 孝伸(東京大学 地球惑星科学専攻)、成行 泰裕(富山大学人間発達科学部)、杉山 徹(独立行政法人海洋研究開発機構 地球情報基盤センター)、中村 匡(福井県立大学)、座長:中村 匡(福井県立大学)、小路 真史(名古屋大学太陽地球環境研究所)

12:00 〜 12:15

[PEM26-12] 磁気流体波から考える分極ベクトルの意味

*中村 匡1 (1.福井県立大学)

キーワード:MHD波, 分極ベクトル, 電場と電束密度

教科書などで電場Eと電束密度Dの関係を説明するときに、ほとんどの場合分子分極をもちだして、電流なり電荷なりを分極部分とそれ以外にわけて、という手順をふむ。これに従うと,分極とそれ以外という区別は物理的になにか本質をついたものであり、電束密度Dも物理的実体であるかのようにな気分になる。それに対して,いくつかの教科書(代表はファインマン物理)では電束密度Dというのは計算を簡単にする数学的な補助場で,本質的なものはEひとつであるという立場で説明してある。しかし,ファインマンでも分極ベクトルPというものは使っていて,これを分子分極から導出している。

しかし本当に分極ベクトル場Pというのは必要なのであろうか? われわれのプラズマ物理の分野では磁場中の粒子のサイクロトロン運動から導かれる分極電流というものがよく知られており,MHD理論の基礎になっている。このプラズマ中での分極電流の計算をするときに,この電流に対応した分極ベクトルPというものが数学的には定義できるが,調べてみると実際にこれに対応した物理的実体は存在しないことがわかる。したがって,分極ベクトルというものは計算上の導入する便宜的なベクトル場であり,本質的なものは分極電流であると考えるほうが妥当である。

標準的な論法では,アンペールの法則の電流項を「真電荷」による電流と「分極電流」による部分にわけるが,そう考えるよりも電流項の中にたまたま電場の時間微分に比例すると近似できるものがあった場合に,それを分極電流としてあつかうという立場の方が,直感的に理解しやすい。

そして,不導体の分子分極や,MHDプラズマの分極電流などは,この近似がよくなりたつので,分極ベクトルPを導入して電束密度Dでマックスウェル方程式を書き直すと,真空中の場合と同じ形になってあつかいやすいわけである。この立場,「真電荷」というのは何になるかというと,比例関係で近似しきれなかった電流がつくる電場という定義になる。

本講演は新しい研究成果というより,プラズマ物理でよく知られているサイクロトロン運動からくる分極電流をつかって,電場と電束密度の関係を説明するという教育的観点からの意味に充填をおく。講演では以上に述べた立場から,無衝突プラズマの分極電流を例に,電束密度Dおよび分極ベクトルPの一般論を議論する。