日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ45] 地球科学の科学史・科学哲学・科学技術社会論

2015年5月24日(日) 11:00 〜 12:45 203 (2F)

コンビーナ:*矢島 道子(東京医科歯科大学教養部)、青木 滋之(会津大学文化研究センター)、山田 俊弘(千葉県立船橋高等学校)、吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、座長:山田 俊弘(千葉県立船橋高等学校)、矢島 道子(東京医科歯科大学教養部)

12:15 〜 12:30

[MZZ45-06] 丸くない地球と暮らす:地球の形・大きさ概念と測地学者の集団性の相互生成をめぐって

*森下 翔1 (1.京都大学大学院人間・環境学研究科)

キーワード:科学人類学, 測地学, 共生成, アクターネットワーク理論, 地球の形と大きさ, 歴史的存在論

本発表の目的は、「地球の形と大きさ」をめぐる測地学における実践の系譜と現在についての記述をつうじて、地球の形と大きさを調べる人びとの集団性と、地球の形と大きさの概念がいかに移り変わりながら、現在の姿を形作っているのかを考察することにある。
科学論において、科学者集団は何らかの属性を共有する集団として措定されてきた。「理性を用いて思弁・推論を行い真理へと到達する個人の集まり」、「パラダイムを共有する集団」、「利害関心を共有する集団」といった具合である。こうした前提は、科学においていかに知識が生産され、その知識が正しいものとして定着するかということを説明するために導入されたものである。
しかしこうした前提は、人びとが自らの探究の過程で探究の在り方(またその探求の在り方に応じた探究対象に措定される属性の在り方)を変容させ、それに応じて人びと自身の存在形態が変化するという事態を捉えることを妨げる。本論ではカロン・ラトゥールらによって提唱されたアクターネットワーク理論を背景として、測地学者による地球の形と大きさの探究を事例に、人びとが自らの探究活動を通じて自分達の存在形態を変化させ、同時に探究の対象の在り方を変化させるのかを論じる。
地球の形や大きさの概念は、人間の知覚が地に縛られておりその全体を知覚する手段が存在せず、古代ギリシャの哲学者がさまざまなリソースを集めて形を推定したり、大きさを計算するシステムを構築していた時代から、人工衛星によりその全体像が知覚され、人間の身体の及ばぬ感度を持つ機械によって探究されるようになる現代まで、きわめてドラスティックに変貌してきた。その過程において、地球の形・大きさを調べる側も、リソースを集める図書館長が担っていた時代から、さまざまな形態で集団化する人工衛星のデータ解析者のネットワークへと変化している。本発表ではそのダイナミクスの一端を記述しつつ、現在の日本の測地学者の集団性の在り方について分析したい。