日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS30] 遠洋域の進化

2015年5月26日(火) 11:00 〜 12:45 304 (3F)

コンビーナ:*松岡 篤(新潟大学理学部地質科学科)、栗原 敏之(新潟大学大学院自然科学研究科)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、尾上 哲治(熊本大学大学院自然科学研究科)、木元 克典(独立行政法人海洋研究開発機構)、野崎 達生(海洋研究開発機構地球内部ダイナミクス領域)、植田 勇人(新潟大学理学部地質科学科)、小林 健太(新潟大学理学部地質科学科)、長谷川 卓(金沢大学自然システム学系)、座長:尾上 哲治(熊本大学大学院自然科学研究科)、松岡 篤(新潟大学理学部地質科学科)

11:45 〜 12:00

[MIS30-11] カナダ北東部、ニューファウンドランド島に分布するオルドビス系チャート・珪質岩に発達する生痕化石

*角和 善隆1 (1.明治大学ガスハイドレート研究所)

キーワード:生痕化石, オルドビス系, チャート, カナダ, Teichichnus, 進化

オルドビス紀における生物多様性の急激な増大は、Great Ordovician Diversification Event(Webby, 2004)として注目されている。しかし、遠洋域深海底における底生生物がどのような状況にあったかは、まったく触れられていない。遠洋深海底は、その広大さから地球環境の変動に重要な位置を占めており、解析は重要である。その情報を持っているのが放散虫チャートを代表とする珪質堆積物であり、そこに記録された生痕化石である。これまでオーストラリア南東部の各地で検討した上部カンブリア系から上部オルドビス系チャートでは、生痕化石は上部カンブリア系には僅かに小型のものが散見されたが、中部オルドビス系Darriwilianには普遍的に発達していると発表し(Kakuwa & Webb, 2007;2010)、支持されている(Percival, 2012)。今回は、カナダでの例を報告する。
 カナダ北東部のニューファウンドランド島にはIapetus海の拡大とともにチャート・珪質岩が堆積した。検討したのは3つの異なるチャートユニットである。以下地質情報はO’Brien (2012)に基づく。(1)Wild Bight層群の火山岩類の上位に整合に載るチャートや頁岩からなるShoal Arm累層は、下部から赤色チャート、灰色チャート、黒色頁岩などからなり、上位のBadger層群、 Gull Island累層のturbidite砂岩に覆われる。時代はShoal Arm累層全体でSandbian (Caradocian) ~ Early Katian (Caradoc/Ashgill境界)とされている(O’Brien, 2012)。これは上部の黒色頁岩を含んでおり、チャートのみならN. gracilis zoneすなわち、Sandbianの前半程度である。(2)tholeiitic and alkaline pillow lava and pillow brecciaからなるLawrence Head累層の上位には、主にチャート・泥岩からなるStrong Island Chertが堆積している。時代はDarriwilianの基底部からSandbianの下半部頃である。混濁流起源の砂岩を挟み、泥質チャートないし珪質泥岩を主とする。(3)Sanders Cove累層は、Tremadocian から Dappingianの堆積岩類を主とし、火山岩類からなるTea Arm累層を覆う。その中で、赤色・緑色珪質頁岩を主とし、チャート(珪化された凝灰岩だろう)、そして火山砕屑物を主とする混濁流起源の砂岩を間に挟む部分を特に調べた。
 これら3つのオルドビス系チャート・珪質岩は、その産状から典型的な遠洋深海の堆積物とは異なることが分かった。しかし、オルドビス紀の初期では小型であり、中期以降は大型で形態の多様性も高いという点で、オーストラリアで見られた傾向と同じである。例えば、オルドビス紀初期のSandars Cove累層では小型の単純なPlanolites型トンネルのみである。またオルドビス紀中期?後期のShoal Arm累層、Strong Island Chertは、下部の赤色チャート、珪質岩ではやはり小さなPlanolites型のみが見られ、上位には大型のTeichichnus型を代表として、より多様な形態の生痕が発達する。
 しかしShoal Arm累層では、底生生物は大きな時代による進化傾向に重ねて、堆積盆の発達過程に支配されたと思われる部分的な環境変動による別の傾向も示す。例えば、最下部では酸化的環境であり、底生生物も十分進化していたはずの時代にもかかわらず、単純小型なものしか見られない。そして上半部では、頻繁に無酸素環境が発達した事を示す一方で、大型のTeichichnus-typeの生痕も繰り返し現れ、酸素レベルの変動が顕著であった事を示す。