日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG21] 自然資源・環境の利用と管理

2015年5月27日(水) 14:15 〜 16:00 101A (1F)

コンビーナ:*上田 元(東北大学大学院環境科学研究科)、大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)、座長:大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)、上田 元(東北大学大学院環境科学研究科)

15:30 〜 15:45

[HGG21-06] 中国内モンゴルにおける草地利用の課題

*佐々木 達1 (1.札幌学院大学)

キーワード:牧畜業, 草地利用, 草原地域, 内モンゴル自治区

内モンゴル自治区は,自然条件から見ると概ね1,000m以上の標高にあり,乾燥および半乾燥地域に属している.年間降水量は多くの地域で350㎜以下であり,東南から北西にかけて逓減する傾向にあるだけでなく降水量の変動幅も大きい.さらに,利用可能な地下水の量も限定されており,保有量の地域差も大きい.そのことから地域的な旱魃や雪害による家畜被害の発生が常態化している。そのため,草原地域における牧畜業は,原生の植生をいかに保持しながら利用するのかが経営や生業を維持するための主要課題となってきた.
ところが,内モンゴルの草原地域は,中華人民共和国の成立から今日に至る半世紀の間に大きな変容を遂げてきた.例えば,草原生態環境の悪化による利用可能な草地の減少,農耕条件不利地域における開墾による砂漠化の進行といった状況はこの間の変化を象徴するものである.これは,自然資源の保全よりもむしろ増加する人口圧力に対する食料供給を優先する中で生み出されてきた側面が強い.
しかし,2000年代に入ると,砂塵暴(黄砂)の供給地や利用可能な草地の激減といった環境問題として注目されるようになり,中国政府は退耕還林還草政策,禁牧政策,生態移民政策など一連の環境保全政策を打ち出して生態環境の改善を図ろうとしてきた.もともと内モンゴルのような脆弱な生態環境そのものに備わった特性に依拠する草地利用型牧畜業は,人間の働きかけによる自然条件の改変余地が少なく,その利用を草地の再生産の速度を超えない範囲にとどめることによって成立してきた.自然の根源的な特性そのものを活用する人間の営みとして形成されてきた「遊牧」は,草地利用型牧畜業の最たる経営方式であった。ところが,この経営方式は自然の再生産速度に依存するため,生産性という点では非常に低く,多くの人口を扶養することはできない.
そして,内モンゴルの草原地域では定住化,草地分割など草地利用を特定箇所に固定させる方向で牧畜業を発展させようとしてきた.そのため,自然資源の保全と食料供給の増加との両立が著しく困難性を伴っているところに持続的な草地利用の課題が横たわっているのである.本報告は,内モンゴルの牧畜業における草地利用制度の変遷を整理したうえで,自然資源としての草原の利用管理の現状と今後の課題を検討する.