日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS33] 2011年巨大地震・津波以後の東北沖海洋科学

2015年5月26日(火) 14:15 〜 15:00 102B (1F)

コンビーナ:*宇佐見 和子(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、池原 研(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、伊藤 喜宏(京都大学防災研究所)、豊福 高志(独立行政法人海洋研究開発機構)、座長:宇佐見 和子(産業技術総合研究所地質情報研究部門)

14:15 〜 14:30

[MIS33-14] 東北地方太平洋沖地震が三陸沖日本海溝斜面のメイオファウナ群集に与えた影響

*北橋 倫1渡邊 妃美子2ジェンキンズ ロバート3野牧 秀隆4嶋永 元裕5藤倉 克則4小島 茂明1 (1.東京大学・大気海洋研究所、2.熊本大学・理学部、3.金沢大学・理工研究域自然システム学系、4.海洋研究開発機構、5.熊本大学・沿岸域環境科学教育研究センター)

キーワード:地震, 撹乱, メイオファウナ, ソコミジンコ類, 群集構造

深海底は一見一様に見えるにも関わらず,その生物多様性は熱帯雨林に匹敵するほど高い(Hessler & Sanders 1967; Grassle 1989).それは捕食や底層流などの小スケールの撹乱が頻繁に起こり,異なる遷移段階がパッチ状に存在するためであるとされている(Rex 1981; Levin et al. 2001).小スケールの撹乱が深海生物に与える影響は様々な分類群で研究されている一方で(Kaminski 1985; Hall 1994; Paterson & Lambshead 1995; Thistle 1998),大規模な撹乱の影響についての研究は限られている.地震や津波による海底斜面崩壊によって発生する乱泥流(タービダイト)は深海生物群集への大規模撹乱の一例である(cf. Harris 2014).
2011年3月11日,三陸沖を震源としたマグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震が発生し,震源域を中心とする広範囲でタービダイトの影響が確認されている(Ikehara et al. 2011; Arai et al. 2013).このような大規模な撹乱は,浅海の生態系だけでなく(e.g. Kanaya et al. 2012; Seike et al. 2013),深海の生態系にも大きな影響を与えたと予想される.そこで本研究では,深海底において最も生息密度の高い多細胞生物であるメイオファウナ,特に底生カイアシ類(ソコミジンコ類)を用いて、大規模撹乱が深海生態系にどのような影響を与えたのかを解析した.
サンプリングは三陸沖日本海溝斜面(水深120?5,600 m)において,2011年7月から8月(地震から4.5ヶ月後)に行われた淡青丸KT-11-17次航海(12測点),および「よこすか」YK-11-E06次航海(2測点),2012年8月(地震から1.5年後)に行われたKT -12-18次航海(12測点)で行った.得られた堆積物からメイオファウナを分画し,高次分類群ごとに計数した.メイオファウナ全体の生息密度は,地震前に同海域で行われた研究(Shirayama & Kojima 1994)と比較した.さらに,底生カイアシ類(ソコミジンコ類)については属レベルまで同定し,群集構造解析を行った.
その結果,深海堆積物への大規模な撹乱は,メイオファウナの堆積物中での鉛直分布パターンに影響するが,メイオファウナ全体の生息密度に影響しない,もしくはメイオファウナは大規模な撹乱後,一時的に減少しても,地震後4.5ヶ月以内に速やかに回復することが明らかになった.加えて,三陸沖のソコミジンコ類の群集構造は地震後の1年間,さらに地震前後でも変化していないことが示唆された.これらの結果は,巨大地震が頻発する日本海溝斜面に生息するメイオファウナは撹乱に対する回復力が強いことを示している.発表では,本研究の背景と結果についてより詳しく説明する.