日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

2015年5月27日(水) 16:15 〜 18:00 304 (3F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、座長:森 俊哉(東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)、寺田 暁彦(東京工業大学火山流体研究センター)

16:45 〜 17:00

[SVC45-03] 吾妻山における火山性地震に先行する膨張相

*山本 希1 (1.東北大学大学院理学研究科)

キーワード:火山性地震, 火山性流体, 地震発生

活火山浅部における流体の存在は流体圧による断層面上有効法線応力低下による剪断すべりの促進,開口断層の生成など火山性地震の発生に密接に関与するものであるとともに,流体の移動は群発地震活動の誘引や震源移動・震源域拡大などを引き起こすと考えられている.したがって,地震発生に伴う流体諸現象の検出・観測は,火山性地震発生プロセスの理解のために重要であると考えられる.本発表では,そのような地震発生と流体現象の関連のひとつの観測的事例として,活動活発化が懸念されている吾妻山における地震活動の中に検出された地震発生に先行した体積膨張相について報告を行う.
吾妻山は,東北本州弧の火山フロント上に位置する第四紀火山であり,複数の安山岩質成層火山によって構成される.最近の火山活動は,火山東部の浄土平周辺に分布する吾妻小富士・大穴・一切経などの火口群で発生しており,主に水蒸気噴火に伴う噴石や降灰などの被害をもたらしてきた.また,現在噴気活動を行っている大穴火口の直下浅部においては,通常の火山構造性地震とともに火山性微動・低周波地震・単色地震・N型地震など多様な火山性地震が発生しており,浅部における火山性流体の存在・複雑な破砕帯の存在などが示唆されてきた.2014年以降,吾妻山では火山活動の活発化の兆しが見られ,微小な地殻変動とともにこれらの地震活動の活発化が認められ,2015年1月中旬には一日当たり200回を超える群発的な地震発生を示すこともあった.
吾妻山の火山性地震では,地震発生に先行する微弱な前駆的震動が観測されることも多く,地震発生と流体挙動の関連を想起させるものであったが,2015年1月の群発性地震を火口近傍の地震計・傾斜計のデータも含めて精査した結果,地震発生約5秒前から前駆振動に同期して微弱な膨張相が存在することが明らかとなった.観測点の分布が十分でないため,震源機構の推定は困難であるが,観測された変位記録および傾斜記録を用いて,等方的な震源機構と震央を仮定して波形モデリングを行った結果,この膨張相は地震の震源域とほぼ同じ大穴火口直下深さ約2kmの領域で発生していることが示された.この震源域・膨張相の力源は,繰り返し全磁力測定や短基線GPS解析によって先行研究で提唱されている消磁・帯磁域および圧力源のやや深い側に位置する.これらの結果は,火口直下浅部において断層上における流体介在が有効法線応力の低下・地震発生を引き起こし,流体移動が連鎖的・群発的な地震活動を誘引したことの一つの観測的実証と言える.今後,火口・震源域近傍における稠密観測網を展開し,震源機構の推定・応力降下量推定などとともにこれらの膨張相の解析を行うことで,さらに火山性地震と火山性流体の相互作用の定量的な理解が進むと期待される.

謝辞:本研究では,気象庁・火山観測網の地震波形データを使用させていただきました.