日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS26] 生物地球化学

2015年5月28日(木) 16:15 〜 18:00 104 (1F)

コンビーナ:*楊 宗興(東京農工大学)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:岩田 智也(山梨大学生命環境学部)、角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)、稲垣 善之(森林総合研究所)、藤井 一至(森林総合研究所)

17:30 〜 17:45

[MIS26-27] 間伐がヒノキ葉の窒素濃度および炭素・窒素安定同位体比に及ぼす影響

*稲垣 善之1野口 享太郎1宮本 和樹1奥田 史郎1野口 麻穂子1伊藤 武治1 (1.森林総合研究所)

キーワード:ヒノキ, 間伐, 窒素濃度, 炭素安定同位体比, 窒素安定同位体比

ヒノキ人工林において間伐を実施すると、残存木にとっての土壌の水分、窒素資源が増加し、水分や窒素の利用効率に影響を及ぼすと考えられる。葉の窒素濃度、窒素安定同位体比(δ15N)、炭素安定同位体比(δ13C)は、それぞれ、窒素吸収量、窒素吸収源、水分利用効率の指標として利用されており、これらの指標から間伐前後の残存木の資源利用の変化を明らかにすることが期待される。本研究では、高知県のヒノキ林において、間伐前後のヒノキ葉の性質の変化を明らかにした。6つの処理区(高標高地域では無間伐区、35%間伐区、50%間伐区、50%列状間伐区、低標高地域では、無間伐区、50%間伐区)について20m×20mの調査区を3繰り返しで設定し、2008年生育期前に間伐を実施した。間伐前の2007年と間伐翌年の2009年の夏にスリングショットを用いてヒノキの葉を採取し、窒素濃度およびδ15N、δ13Cを分析した。その結果、18林分のヒノキ葉の窒素濃度は2007年に7.9~13.4 mg g-1、2009年に7.7~12.7 mg g-1を示した。2時期の窒素濃度の変化量は、-1.2~+2.1 mg g-1であり、2007年の窒素濃度が低いほど、間伐率が大きいほど2009年に増加する傾向が認められた。したがって、間伐前に窒素制限を受けている林分ほど間伐後に窒素吸収量が増加することが示唆された。葉のδ15Nは、2007年には-5.9~-1.6‰、2009年には-6.0~-2.0‰を示した。δ15Nの2時期の変化は-0.6~0.8‰であり、間伐率や伐採前の葉の窒素特性との関係は有意ではなかった。したがって、ヒノキの窒素源は間伐によって変化しないと考えられた。ヒノキ葉のδ13Cは2007年に-28.6~-26.9‰、2009年に-28.5~-26.2‰の値を示した。δ13C の2時期の変化は-0.9~+1.5‰であり、間伐率が大きいほど、2007年のδ13Cが低いほど、2007年の窒素濃度が低いほど2009年にδ13Cが増加する傾向が認められた。間伐後に土壌水分が増加することによって水分利用効率が低下する傾向は認められなかった。一方、δ13Cの変化は、間伐前に水分ストレスが顕著でない林分で、間伐後に水分利用効率が増加する傾向、および、間伐前に窒素制限の強い林分で、間伐後に窒素吸収量が増加し葉の光合成活性が高まる傾向を示すと考えられた。以上の結果より、ヒノキ林における間伐は、窒素の少ない立地条件の残存木の窒素制限を緩和するうえで有効であると考えられた。