日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS25] 強震動・地震災害

2015年5月25日(月) 14:45 〜 16:00 A04 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*元木 健太郎(小堀鐸二研究所)、座長:佐藤 智美(清水建設技術研究所)、岩城 麻子(防災科学技術研究所)

14:45 〜 15:00

[SSS25-15] 中国・四国・九州地方におけ地震動の距離減衰分布

*池浦 友則1 (1.鹿島技術研究所)

キーワード:強震動, 距離減衰特性, サイトファクター, 西南日本

■はじめに
西南日本の中国・四国・九州地方における強震動の距離減衰特性を検討する.この地域はフィリピン海プレートが屈曲して沈み込む領域にあたり,周辺には大規模な火山帯が存在するなど,構造的な条件がやや複雑である.また,東北日本に比べて地震活動度が低いため,強震動の距離減衰特性を正しく把握するのがやや難しい地域でもある.とはいえ,1997年3月26日と5月13日の鹿児島県北西部地震,1997年山口県北部地震,2000年鳥取県西部地震,2005年福岡県西方沖地震と内陸の被害地震がいくつかあり,2001年芸予地震のようなスラブ内の被害地震も発生している.これらの地震による強震動の距離減衰特性を正しく把握しておくことは有意義であろう.
■西南日本地域におけるK-NET・KiK-netのサイトファクター評価
中国・四国・九州地方におけるK-NET・KiK-net地点で隣接観測点のネットワークを構成し,最小二乗法を用いてすべての隣接観測点間の平均スペクトル比を同時に満足するように,参照観測点に対する相対サイトファクターを評価した.隣接観測点としては地点間距離25km以内を目安とし,各隣接2地点間の平均スペクトル比を求める記録は,①震源から2観測地点に伸ばした直線の角が5度以内,②両地点のPGAが100Gal以下,③両地点の震源距離が300km以内,の3条件を満足することとしている.
最終的に中国・四国・九州地方のK-NETとKiK-netで隣接観測点2173ペアを用い,630点(地表と地中は別地点扱い)の相対サイトファクターを評価した.最短の隣接2地点間距離は0.1km,隣接2地点間で用いた地震数はペア毎に大きく異なり4~108地震,最大規模の地震は2004年9月5日23時57分の紀伊半島沖地震(M7.4)である.参照観測点としてはYMGH12美東の地中(GL-102m,Vp=6000m/s, Vs=3250m/s)を採用した.なお,九州地方北西部では,隣接する観測点ペアで上記の条件を満足する地震が乏しく,隣接観測点間の相対サイトファクターが安定的に評価できないため除外した地点も多い.
■内陸地震とスラブ内地震の距離減衰特性の検討
各K-NET・KiK-net地点の観測地震動スペクトルを,上記で得られた相対サイトファクターで割算して距離減衰特性を検討した.2000年10月6日鳥取県西部地震(M7.3,h9km)による高周波数領域の距離減衰特性は地点毎の揺れ易さの違いが排除されて非常によくまとまり,両対数図上でみると震源距離10~500kmの範囲でほぼ線状の分布となった.ただし,震源付近から震源距離200km前後までの区間とそれ以遠では明らかに傾斜が異なり,遠方の傾斜が急である.震源距離200kmは概ね九州地方にさしかかる距離であり,この折れ曲がりは九州地方に入って以降の高減衰を示唆する.
2001年3月24日芸予地震(M6.7,h46km)による距離減衰分布も,周波数10Hz程度以下の範囲では2000年鳥取県西部地震ほどではないが,ある程度よくまとまり,震源距離50~400kmの範囲で比較的単純な距離減衰分布の特徴を示した.ただし,20Hz程度の高周波数になると,距離減衰効果に地点によるばらつきが認められ,早めに減衰する地点とそうでない地点との違いがやや明瞭になった.
さらに,この特徴は2014年3月14日伊予灘のスラブ内地震(M6.2,h78km)でより顕著に観察された.この地震で震源距離80~350kmの範囲の距離減衰分布を検討したところ,観測地震動の場合は高周波数になるほどダンゴ状の分布であるが,相対サイトファクターで割算することにより,いくつか枝状の距離減衰分布が浮かび上がってくることが分かった.枝状の距離減衰分布の様子は周波数帯域によって変化し,2Hz付近の振幅は中国>四国>九州,一方,10Hz以上の振幅は四国>中国>九州であった.また,20Hz付近ではforearc>backarcという単純な構図も見える.
最近の伊予灘のスラブ内地震としては他に1998年5月23日(M5.4,h86km),2006年9月26日(M5.3,h70km)があり,これらでも類似の特徴が見いだされた.そのため,このような複雑な距離減衰特性は,この地域特有の現象と考えることができ,筧(2014)が指摘しているとおり,沈み込んでいるフィリピン海プレートの形状や高減衰の火山帯の分布といった構造的な要因を踏まえて定量的に解釈される必要がある.
■参考文献:池浦・加藤(2011)日本地震工学会論文集,筧(2014)日本地震学会2014年秋季大会
■謝辞:防災科研K-NET・KiK-netの記録を使用させていただきました.記して感謝します.