日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS22] 地球流体力学:地球惑星現象への分野横断的アプローチ

2015年5月27日(水) 09:00 〜 10:45 106 (1F)

コンビーナ:*伊賀 啓太(東京大学大気海洋研究所)、中島 健介(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、柳澤 孝寿(海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域)、相木 秀則(海洋研究開発機構)、座長:吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

09:15 〜 09:30

[MIS22-02] 金属上で融解する氷塊の自発的回転

田中 雅士1波々伯部 広隆1吉田 茂生2、*中島 健介2 (1.九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻、2.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

キーワード:相変化, 表面張力, 熱伝導, 自己推進運動, 気泡

1. はじめに
 氷の塊を室温または暖めた真鍮(他の金属でも良い)の水平な円柱の上に乗せると,氷塊は融解と共に自発的に回転をはじめ,それが持続することを発見した.現象に必要な条件を探索すると,気泡を含まない氷は回転しないことがわかった.ゆえに,氷と真鍮の間の流体層における気泡の存在が回転に必要である.また,真鍮内部の温度が低下するにつれて回転角速度も低下し,真鍮が0℃付近まで冷えきると氷の回転は止まる.したがって,熱伝導により供給される熱流がこの現象の発現に本質的に重要であることが示唆される.本発表では,気泡の供給量と真鍮の熱流量を一定にした実験設定でこの現象の安定性と再現性を確認する.さらに,回転角速度のパラメーター依存性を調べ,メカニズムの提案を行う.

2. 再現性と安定性の確保
 氷に伝わる熱流量と流体層の気泡の流入量を制御した実験設定を用意する.真鍮下部を水に浸し恒温装置を用いて水温を一定にすることで,真鍮内部の熱流量を制御する.実験に用いる氷塊は業者から購入した気泡を含まない氷である.ドリルで底面に貫通しない穴をあけ,融解と共に液体層に空気が流入するようにした.この設定で複数回の実験を行った結果,氷に穴が開いている間は回転角速度がほぼ一定になり,試行ごとのばらつきも小さいことがわかった.本実験設定において現象の安定性・再現性が±10%程度で確認された.

3. 回転角速度のパラメーター依存性
上記の設定で回転角速度のパラメーター依存性を調べた.その結果,回転角速度は熱流量の約0.5乗に比例し,氷のサイズの0.56乗に反比例するが,気泡の体積流入量や荷重にはほとんど依存しないことがわかった.

4. 表面張力による駆動の可能性
 回転中の様子を観察すると,氷が回転しているとき,気泡は真鍮に対してほぼ静止していた.一方で,氷の回転を強制的に止めると,気泡はランダムに動いた.このことから,静止している気泡が氷を押しているのではないかと考えた.具体的には,氷と真鍮の間の流体層における空気と水の熱伝導率の差から,気泡の直上にある氷表面が融解せずに溶け残って下向きに氷の「峰」が成長し,これに表面張力による気泡内外の圧力差が作用して,氷が回転する.

5. スケーリング
 上の駆動力と氷表面に作用する粘性力がバランスすると仮定すると回転角速度がω=(αγF/((1-α)μρL))0.5/Rと見積もれる.氷の半径R, 氷の融解潜熱L,気泡の表面張力γ,水の密度ρ,水の粘性係数μ,熱フラックスFである. 見積もりから得られた回転角速度は,気泡の存在する面積比α=0.04とすると測定結果と同程度の値となる.また,この式は実験で得られたパラメーター依存性の多くを説明する.このことは上で述べたメカニズムの妥当性を示唆する.

6.今後の課題
 未解明な要素として,気泡の存在する面積比αの決まり方,気泡の形,気泡が静止できる条件などが挙げられる.また,氷の峰の存在を確認する実験を行いたい.