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[O-01] ジオパークへ行こう

2015年5月24日(日) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*渡辺 真人(産業技術総合研究所地質情報研究部門)

18:15 〜 19:30

[O01-P34] 広域連携を目指したジオサイト活用の検討:三陸ジオパークの事例

*橋本 智雄1磯前 沙也加1伊藤 太久1下向 武文2 (1.中央開発株式会社、2.三陸ジオパーク推進協議会)

キーワード:ジオパーク, 鉄, 広域連携

1.課題と検討目的
三陸ジオパークは、構成自治体が青森・岩手・宮城の3県16市町村に及び、東日本大震災の被災程度や復興の地域差等から、関連する各団体の活動が市町村あるいはジオサイト内に限定される傾向がある。
これに対し推進協議会では、ジオパーク全地域を対象としたジオガイド研修会を複数回開催し、関係者にジオパークに興味をもってもらい、エリアを横断するジオツアー等の企画を検討・実施している。
一方で、活動を更に推進するためのツールとして、関係者や参加者が三陸ジオパークを縦断して楽しむことができる広域のストーリーの構築が求められている。
本報告では、地域間の連携を目指し、「鉄」をキーワードとした広域ストーリーを検討した事例を紹介する。

2.検討手法
三陸ジオパークには、鉄に関連するジオサイトとして種差海岸(八戸市)、割沢鉄山(普代村)、橋野高炉(釜石市)、釜石鉱山(釜石市)があるが、これ以外の地域でも鉄は広く分布し、古代から重要資源として活用されてきた。そこで、三陸ジオパーク全地域を対象として文献調査、ヒアリング調査、現地調査を行い、鉄をキーワードとする広域ジオストーリーを検証した。

3.資源と地形・地質
調査の結果、三陸ジオパークには上記のジオサイト以外にも、鉄と関係する地域が多数分布し、地域毎に形成過程や活用の歴史が異なることが明らかとなった。この違いの主なものは、砂鉄を利用した「たたら製鉄」と、鉄鉱石から精錬する「近代製鉄」によるものである。

①たたら製鉄
たたら製鉄の原料となる砂鉄は、主に花崗岩の風化で生じた磁鉄鉱が河床や海岸線に濃集して産地を形成している。花崗岩は北上山地全域に点在し、その形成時期は古生代から新生代までと幅広い。
三陸ジオパーク全域で情報を収集・整理した結果、全市町村で花崗岩の分布と重なるようにたたら製鉄の遺跡や地名などが残されていた。また砂鉄は花崗岩の貫入年代に左右されず採取されていた。

②近代製鉄
近代製鉄で使用された鉄鉱石は、古生代の石灰岩地帯で形成されたスカルン鉱床を起源としている。そのため、製鉄関連の遺構は石灰岩と熱源となった花崗岩体の両者が分布する釜石市~気仙沼市付近(南部エリア)に集中している。それらの中には、日本を代表するスカルン鉱床を胚胎する釜石鉱山や世界遺産認定を目指す橋野高炉跡などが含まれている。
一方、同じく石灰岩地帯で花崗岩体の貫入を受けている久慈市~岩泉町付近(北部・中部エリア)では大規模な開発は行われていない。これは、鉱床の規模や地理的要因が考えられるが、今後の検討課題である。

4.たたら製鉄と近代製鉄の繁栄の要因
三陸ジオパークの地形は山地が主体であり、製鉄に必要な木炭の原料である森林資源を豊富に得ることができた。また地質的にも、製鉄の際に還元剤として必要な石灰岩や、高炉に用いる耐火レンガの原料となる耐火粘土等を周辺で調達できたことも、三陸で製鉄が盛んに行われた要因と考えられる。

①たたら製鉄
a.地質的要因:花崗岩の分布、砂鉄や鉄鉱石が採取できる土地
b.地理的要因:海に面している、森林を抱える丘陵地
c.鉄の需要:蝦夷征伐や戦国時代の武器生産、南部藩の特産品

②近代製鉄
a.地質的要因:国内屈指のスカルン鉱床(餅鉄)
b.地理的要因:水車の動力源となる川、十分な平地、森林を抱える丘陵地
c.鉄の需要:幕末以降の砲台生産など

5.まとめと今後の取り組み
「鉄」というキーワードで広域のつながりを検証した結果、既存のジオサイト以外にも地形、地質、文化、歴史と深く関連する地域が数多く分布していたことを明らかにし、これらを共通に理解できる広域のストーリーを構築したことで、活用の可能性を見出すことができた。
今後は、本報告で検討したストーリーを活用したツアーや情報共有のためのイベントを各地で実施するとともに、広大なジオパークならではのネットワークづくりや、地域住民及び観光客の意識、満足度の向上を図りたい。
また、三陸ジオパークのエリアには、鉄以外にも、奥州平泉の黄金文化を支えた金や、繰り返されてきた津波災害、古生代から中生代にかけて連続して分布する地質など、広域のストーリーを構築できるテーマが豊富にあり、これらについても検討を進めていきたい。