日本地球惑星科学連合2015年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG60] 流体と沈み込み帯のダイナミクス

2015年5月25日(月) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*片山 郁夫(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、岡本 敦(東北大学大学院環境科学研究科)、川本 竜彦(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)

18:15 〜 19:30

[SCG60-P06] 上総層群堆積盆の異常高間隙圧の発達メカニズムの検討

丸茂 春菜1金子 幸代2田村 幸枝3三橋 俊介4、*上原 真一2 (1.東邦大学大学院理学研究科、2.東邦大学理学部、3.㈱すかいらーく、4.筑波大学大学院院生命環境科学研究科)

キーワード:上総層群, 異常高間隙圧, 透水係数, 室内透水実験, 数値シミュレーション

異常高間隙圧(静水圧分布からの差)は,堆積層内の流体移動や断層面の摩擦強度など様々な現象において影響を与えるため,その発達メカニズムを検証することは重要である.房総半島に分布する新第三紀-第四紀堆積盆の上総層群の泥岩層には,5~20 %の異常高間隙率の領域が分布することが知られている.この異常高間隙率の原因は異常高間隙圧によるものであると推定されている.しかしながら,その発達過程については,定量的に十分な検討がなされていないのが現状である.異常高間隙圧は,顕著な不透水層の存在や,深部からの流体供給・堆積盆内部での流体の生成等を考えなくても,透水係数や貯留係数の有効圧依存性や堆積速度などの条件によっては,単純な堆積-圧密過程のみでも発達しうることが知られている.本研究では,上総層群泥岩層について,単純な堆積-圧密過程のみで,どの程度の異常高間隙圧および異常高間隙率が発達しうるかについて検討した.そのためにまず,上総層群のシルト岩について,間隙率と透水係数の有効圧依存性を室内実験より求めた.その結果に基づき,堆積作用による間隙圧の増加と間隙圧の拡散を考慮した一次元数値シミュレーションを実施した.
シルト岩試料は,上総層群の梅ヶ瀬層,大田代層,黄和田層,大原層および勝浦層の露頭より採取し,それから直径約40 mm,高さ約30 mmの円柱形に整形したものを実験に使用した.間隙率および透水係数の測定には,東邦大学の容器内岩石圧縮変形透水試験機を使用した.間隙流体には蒸留水,封圧媒体には油を用いた.有効圧下の間隙率は,封圧上昇時に試料より排出される水の量を測定することで測定した.透水係数は,試料両端の圧力差を一定にし,定常状態における流量を測定することで求めた(定差圧流量法).それぞれの測定は,有効圧が2~35 MPaの1サイクルの何点かの応力条件で行った.室内実験の結果,間隙率は約34 ~42 %の値を示したが,大原層の間隙率は大気圧下で55 %と他の試料に比べて高い値を示した.透水係数は,約10-20~10-16 m2の範囲の値を示した.各試料の実験結果より,正規圧密の領域について,間隙圧・透水係数を有効圧の関数で近似し,数値シミュレーションで用いた.数値シミュレーションでは,海底面にシルト性堆積物・シルト岩が厚さ3000 mまで堆積することを想定し,そのときの間隙圧異常および異常間隙率の発達を計算した.堆積-圧密に伴う間隙圧の増加および鉛直方向の拡散を考慮した一次元モデルを差分法で離散化し,シミュレーションに用いた.計算領域下部(堆積盆底部を想定)は不透水境界とし,堆積物表面は間隙圧一定とした.初期条件は,堆積物の厚さは54 m,間隙圧は静水圧分布(間隙圧異常は0)とした.スケンプトン係数は0.9で一定,岩石空隙の圧縮率は間隙率と関係づけることで,有効圧の関数として与えた.堆積速度は一定とし,上総層群に関する既存の研究をもとに3種類(4.0,9.49, 40.0×10-4 m/year)の値を用いた.数値シミュレーションの結果,深くなるにしたがって間隙圧差は大きくなり,堆積速度を9.49×10-4 m/yearとした場合,計算に使用した間隙率,透水係数の関数によって3~12 MPaの間隙圧差が得られた.また,このときの異常高間隙率は0.5~6%となった.堆積速度が大きいほど,異常高間隙圧の値は大きくなり,堆積速度を40.0×10-4 m/year(速い値)とした場合は,最大18 MPaの異常高間隙圧,最大10%の異常高間隙率が得られた.以上の結果から,上総層群のシルト岩の物性及び堆積速度などを考慮した場合,10数MPaの異常高間隙率および数%の異常高間隙率の発生が可能であることが示された.