日本地球惑星科学連合2015年大会

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[U-06] 宇宙・太陽から地球表層までのシームレスな科学の新展開

2015年5月24日(日) 14:15 〜 16:00 105 (1F)

コンビーナ:*松見 豊(名古屋大学太陽地球環境研究所)、草野 完也(名古屋大学太陽地球環境研究所)、石坂 丞二(名古屋大学地球水循環研究センター)、坪木 和久(名古屋大学・地球水循環研究センター)、榎並 正樹(名古屋大学 年代測定総合研究センター)、座長:塩川 和夫(名古屋大学太陽地球環境研究所)、水野 亮(名古屋大学太陽地球環境研究所)

15:35 〜 15:55

[U06-16] 高緯度電離圏に見られる磁気圏や熱圏との「縫い目」が残る現象

*田口 聡1 (1.京都大学大学院理学研究科)

キーワード:高緯度電離圏, 磁気圏, 熱圏

遠方の宇宙から地球の地圏や生物圏までを相互作用するシステムとして捉えようとする立場からすれば,高緯度電離圏の現象が磁気圏や熱圏とどのように結合しているのかという問題は,すでに「シームレス科学」になっているように見えるかもしれない.地球の高緯度の電離圏では,太陽風や磁気圏からの電場によってプラズマの流れが引き起こされ,その流れは中性大気の運動を誘導し,その組成にまで影響が及ぶ.太陽風や磁気圏からの物質の流入としての粒子降下は,オーロラを光らせると同時に電離圏のプラズマの構造を変え,また粒子降下に伴う熱によっても中性大気の運動が引き起こされる.一方,電離圏と中性大気の間で生み出される現象は磁気圏にも作用する.例えば,粒子降下によって増大する電離圏の電気伝導度は,磁気圏で生成される電流を制御する.粒子降下はまた,電離圏から磁気圏へ流れ出るポーラーウインドの生成に大きく関わっている.磁気圏に流れ出たプラズマは,粒子降下の源である磁気圏のダイナミックスに影響を及ぼすことになる.
このようなつながりとそれに付随するプロセスの多くは,観測を通して十分な証拠が得られ,理解の枠組みが確立されてきている.また高精度のシミュレーションに基づく研究によって,複雑なジオメトリーにおける現象が目に見える姿に焼き直されて,さらに理解が進んできている.その一方で,証拠は不十分ではあるが一般的に解決されたと見なされていることもある.現象が,非常に幅のある時間・空間スケールをもつ場合や,多くのパラメータに支配されている場合などがあてはまる.観測から得られるデータが少ない場合,それは限られた状況のみを反映しているに過ぎないが,ある種のシナリオに合致すると一般的に解決されたと見なされてしまう.実際にはつながりの「縫い目」が存在している.
本発表では,2011年から行っているスバールバル諸島のロングイアービィエンでの全天観測,その装置とレーダーとの同時観測,DMSP衛星やST-5などの複数衛星観測から得られるデータの解釈に基づいて,高緯度電離圏の現象のうち,熱圏や磁気圏とのつながりについて,より良い理解が必要と思われるいくつかの現象を取り上げる.また,そのような現象の状況をもとに,広い領域にわたるシームレス科学を進めるにあたって生じる可能性のある一般的な問題も議論する.