日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL39] 地球年代学・同位体地球科学

2015年5月24日(日) 11:00 〜 12:45 A03 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)、座長:佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)、田上 高広(京都大学大学院理学研究科)

12:36 〜 12:39

[SGL39-P05] 炭酸塩の高精度・高解像度環境解析の進展 -魚類耳石の安定同位体比を用いた環境履歴解析を例に-

ポスター講演3分口頭発表枠

鐵 智美1、*石村 豊穂1尾田 昌紀2坂井 三郎3 (1.茨城工業高等専門学校、2.鳥取県水産試験場、3.海洋研究開発機構)

キーワード:安定同位体, 微量分析, 炭酸塩, 耳石, 高解像度, 炭酸塩

炭酸カルシウムで形成される魚類の耳石の酸素安定同位体比(δ18O)は生息環境の温度を反映し,また炭素安定同位体比(δ13C)が餌や代謝といった生体内の情報を反映することが近年の研究にて報告されている(例えばKitagawa et al., 2013).さらに,耳石の日周輪形成とともにその日の安定同位体組成を記録する特徴を利用して,生態推定や環境指標への活用が期待されている.しかしながら,耳石を高解像度で成長段階ごとに切削し同位体比を定量するには,切削した極微量の粉末試料の回収方法の検討と,微少量での同位体分析の実践が必要であった.
 本研究に先立ち,マイクロドリルを用いて耳石の微小領域を手動で切削・回収し,微量炭酸塩安定同位体比質量分析システム(MICAL3, Ishimura et al., 2008)を改良したMICAL3c(茨城高専)を用いて予察的な安定同位体比測定をおこなった.結果,この分析手法を用いて耳石に残された環境情報を数十マイクロメートルオーダーで詳細に分析できる能力があることを確認した.そこで本研究では,微小領域を精密に切削することができる高精度マイクロミルシステムGeomill326を活用し,すでに回遊経路が解明されているマイワシの耳石を成長段階ごとに切削・回収し,それらの安定同位体比からマイワシの回遊履歴全体を再現できるかどうかについて検討した.
 分析の結果,マイワシの耳石中心部・縁辺部の安定同位体組成に明確な違いがあることがわかった.特に縁辺部δ18O値は,個体が採取された時点の生息環境のδ18Oを精度良く反映している.また,耳石δ13C値を見てみると2つのグループに分かれることが明らかとなり,それぞれグループには食性や代謝過程の違いがある可能性が示唆される.この考察に関しては,マイワシの生態をふまえたうえで今後の詳細な検討が必要である. つぎに,一般量販店で購入した1歳魚と推定される千葉県産マイワシの耳石を成長段階ごとに詳細に切削し,それらの安定同位体比を測定した.その結果,成長段階によって安定同位体組成が明瞭に変動することを確認でき,このマイワシ耳石の同位体比の変動幅から北西太平洋を回遊する群集であることが推測された.そこで回遊経路を照合したところ,黒潮から混合域,そして親潮へ移動した情報が耳石に記録されており,実際の回遊経路とも整合性があることが示された.
 これらの結果から,Geomill326とMICAL3cを組み合わせた微小領域における炭酸塩の安定同位体比分析は,今後の高解像度環境解析に有効に活用できることを裏付けた.今後は,より正確に日周輪にそって耳石を切削するためにも,切削深度や切削に用いるサンプルの選定について検討する必要がある.