14:45 〜 15:00
[SCG62-03] スロースリップイベント時空間分布のスウィッチングモデルによるロバストな推定
キーワード:スロースリップイベント, 歪計データ, スウィッチングモデル, 最尤法, カルマンフィルター
短期的スロースリップイベント (SSE) の正確な計測には,埋め込み式歪計や傾斜計といった微小な地殻変動も感知可能な感度の高い計測器が必要である.一方,そのような感度の高い計測器は,様々な外乱因子の影響を受けやすく,計測したデータにはスケールの大きい複雑な時間的構造を持つノイズが含まれる.
本研究では,それら感度の高い計測器から得られたノイジーなデータを用いてSSEの時空間分布を推定する.SSE時空間分布推定の標準的な手法としてネットワークインバージョンフィルター(NIF)があり,主にGNSS データのようなノイズの少ないデータを用いた長期的SSEの推定に適用されてきた.しかし,NIFはノイズや断層すべりによる信号に対して常に同じダイナミクスを仮定しており,大きく変動するノイズを除去できない.そのため,NIFはノイジーな歪計・傾斜計の全期間のデータからSSE時空間分布を適切に推定できない.
本研究では,モデルを2つの時点で切り替えるスウィッチングモデルを用いてロバストにSSE時空間分布を推定する方法を提案する.観測期間を
(1)断層すべりが起こる前(2)断層がすべっている間(3)断層が滑り終えた後
の3つの期間に分けてそれぞれの期間ごとに次のようにモデルをあてはめる.
(1)の期間:滑り量と滑り速度が0で一定なモデル
(2)の期間:断層が滑り続けるモデル
(3)の期間:すべり量が一定なモデル
モデルの切り替え時点とパラメータは最尤法で推定し,パラメータの推定アルゴリズムにはExpectation-Maximization (EM) アルゴリズムを用いる.EMアルゴリズムは初期値依存性が低いため安定したパラメータ推定が可能となる.SSEの時空間分布は,切り替え時点とモデルパラメータを推定した後にカルマンフィルターを実行して推定する.①③の期間で断層すべり量を物理的に合理的な値で固定したことで,これら期間のノイズをほとんど除去でき,②の期間の断層すべりにおいても安定した推定値を得ることができる.
提案手法とNIFを次の2つのデータに適用して性能を比較した.一つは,SSEによる歪のシミュレーション値にスケールの大きなノイズを加えて生成した人工データ,もう一つは,東海地方・紀伊半島で2012年に発生した短期的スロースリップによる微小な地殻変動を計測した歪計のデータである.人工データに対しては,提案手法がNIFより正確に断層すべり分布を推定できた.歪計データに対しても,NIFは地震学的に生じえない断層すべり分布を推定したが,提案手法はより物理的に矛盾しない断層すべり分布を推定した.また,SSEの開始時点を客観的に検出することは重要であるが,提案手法では,NIFでは捉えることができなかった人工データ,歪計データ両方において正確にSSE開始時点を検出できた.
本研究では,それら感度の高い計測器から得られたノイジーなデータを用いてSSEの時空間分布を推定する.SSE時空間分布推定の標準的な手法としてネットワークインバージョンフィルター(NIF)があり,主にGNSS データのようなノイズの少ないデータを用いた長期的SSEの推定に適用されてきた.しかし,NIFはノイズや断層すべりによる信号に対して常に同じダイナミクスを仮定しており,大きく変動するノイズを除去できない.そのため,NIFはノイジーな歪計・傾斜計の全期間のデータからSSE時空間分布を適切に推定できない.
本研究では,モデルを2つの時点で切り替えるスウィッチングモデルを用いてロバストにSSE時空間分布を推定する方法を提案する.観測期間を
(1)断層すべりが起こる前(2)断層がすべっている間(3)断層が滑り終えた後
の3つの期間に分けてそれぞれの期間ごとに次のようにモデルをあてはめる.
(1)の期間:滑り量と滑り速度が0で一定なモデル
(2)の期間:断層が滑り続けるモデル
(3)の期間:すべり量が一定なモデル
モデルの切り替え時点とパラメータは最尤法で推定し,パラメータの推定アルゴリズムにはExpectation-Maximization (EM) アルゴリズムを用いる.EMアルゴリズムは初期値依存性が低いため安定したパラメータ推定が可能となる.SSEの時空間分布は,切り替え時点とモデルパラメータを推定した後にカルマンフィルターを実行して推定する.①③の期間で断層すべり量を物理的に合理的な値で固定したことで,これら期間のノイズをほとんど除去でき,②の期間の断層すべりにおいても安定した推定値を得ることができる.
提案手法とNIFを次の2つのデータに適用して性能を比較した.一つは,SSEによる歪のシミュレーション値にスケールの大きなノイズを加えて生成した人工データ,もう一つは,東海地方・紀伊半島で2012年に発生した短期的スロースリップによる微小な地殻変動を計測した歪計のデータである.人工データに対しては,提案手法がNIFより正確に断層すべり分布を推定できた.歪計データに対しても,NIFは地震学的に生じえない断層すべり分布を推定したが,提案手法はより物理的に矛盾しない断層すべり分布を推定した.また,SSEの開始時点を客観的に検出することは重要であるが,提案手法では,NIFでは捉えることができなかった人工データ,歪計データ両方において正確にSSE開始時点を検出できた.