日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 U (ユニオン) » ユニオン

[U-07] 連合は環境・災害にどう向き合っていくのか?

2015年5月28日(木) 14:15 〜 15:45 103 (1F)

コンビーナ:*田中 賢治(京都大学防災研究所)、作野 裕司(広島大学大学院工学研究院)、後藤 真太郎(立正大学地球環境科学部環境システム学科)、座長:田中 賢治(京都大学防災研究所)、作野 裕司(広島大学大学院工学研究院)、後藤 真太郎(立正大学地球環境科学部環境システム学科)

14:15 〜 14:30

[U07-12] 集中豪雨の発生メカニズムから見た数値予報における課題~2014年8月20日広島豪雨を例として~

*加藤 輝之1 (1.気象研究所)

キーワード:集中豪雨, 線状降水帯, 数値予報モデル

2014年8月20日の未明から明け方にかけて、日本海上に停滞していた前線の約300km南側に位置する広島市で3時間に200mmを超える大雨が発生し、土砂災害で74名の方が亡くなられた。この大雨は幅20~30km、長さ約100kmの線状降水帯が数時間停滞することで引き起こされた。本研究では大雨の発生要因について、特に豊後水道の効果に着目して気象庁メソ・局地解析から考察し、その要因を踏まえて数値予報の予測精度向上における課題を提示する。
線状降水帯は、広島と山口の県境付近で次々と発生した3~5個程度の積乱雲で形成された積乱雲群(バックビルディング型形成)が北東方向に移動しながら、複数連なって作り出されていた。このようにバックビルディング型形成は、積乱雲群の形成だけでなく、積乱雲群による線状降水帯の形成でも確認できた。土砂災害が発生した広島市三入では少なくとも5つの積乱雲群が通過することで、200mm以上の降水がもたらされていた。線状降水帯の向きは上空3km付近の風向とほぼ一致していた一方、下層1kmでは南風となっていたため、下層水蒸気が線状降水帯の側面から継続的に供給され、積乱雲が繰り返し発生・発達しやすい大気状態であった。
線状降水帯が発生した場所は前線に沿って存在していた幅約500kmの上空の湿った領域の南端に位置し、豊後水道からの大量の下層水蒸気(高度500mの相当温位~355K、水蒸気フラックス量~300g/m2/s)が流入していた。豪雨の発生約6時間前では、豊後水道上の水蒸気量は周辺よりも少ない状態であったが、その後2時間で約3g/kgの比湿の増加および2~3m/sの風速の加速が見られた。豊後水道は九州と四国の高度500m以上の高い山岳域に挟まれているので、南から流入する下層の空気は豊後水道に集中する。そこでは、ベルヌーイの法則により気圧が下がって風速が加速し、地表(海面)の摩擦に起因する上向きの気圧傾度力によって生じた上昇気流で、下層から上空に水蒸気が運ばれ、大気下層に水蒸気が蓄積されていた。このようにして蓄積された大量の水蒸気が20日04時頃まで広島周辺に流入して、大雨をもたらしていた。
毎時9時間予報を行っている気象庁局地モデル(水平分解能:2km)の結果を見ると、19日18時初期値ではほぼ実況と同程度の降水強度の線状降水帯を予測することに成功していたが、初期値が変わる毎に降水量や発生位置に大きな違いが生じていた。大気下層に流入する空気の相当温位が同じであっても、風速が変化することで水蒸気フラックス量に差が生じて降水量が異なり、風向が1~2度程度変わるだけで発生位置が20~30kmずれていた。これらから、豪雨発生位置の風上にあたる下層の水蒸気量を的確に把握するのはもちろんのこと、Kato and Aranami (2005)で指摘しているように風速や風向の精度も豪雨の予報向上には必要であることがわかる。下層の風向は上空の大気の流れに左右されるので、下層ばかりに着目してもダメである。また、広島のケースでは豊後水道上で大気下層に水蒸気が蓄積されていることからも、数値モデルの境界層過程が適切に表現されているかも検証し、改善を図ることが必要である。ただ、海上での情報なので、そこでのデータを取得するためには気象分野だけでなく、関係研究機関との連携が重要である。

参考文献
Kato, T., and K. Aranami, 2005: Formation factors of 2004 Niigata-Fukushima and Fukui heavy rainfalls and problems in the predictions using a cloud-resolving model, SOLA, 1, 1-4.