日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS33] 2011年巨大地震・津波以後の東北沖海洋科学

2015年5月26日(火) 11:00 〜 12:45 102B (1F)

コンビーナ:*宇佐見 和子(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、池原 研(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、伊藤 喜宏(京都大学防災研究所)、豊福 高志(独立行政法人海洋研究開発機構)、座長:池原 研(産業技術総合研究所地質情報研究部門)

11:45 〜 12:00

[MIS33-11] 大槌湾沖合における海底環境の長期連続観測

*小栗 一将1古島 靖夫1豊福 高志1笠谷 貴史1渡邉 修一1藤倉 克則1北里 洋1 (1.海洋研究開発機構)

キーワード:海底, 長期観測, 地震, 底生生物群集

【はじめに】
 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震と津波によって、海底の環境も大きな変動を受けた。地震後、宮城県沖の陸棚から日本海溝に至る広い範囲において、海底付近で強い濁度が観測され(Kawagucci, et al., 2012; Noguchi et al., 2012)、海底には乱泥流により形成されたと考えられるイベント堆積層が確認された(Arai et al., 2013;Oguri et al., 2013)。また、青森県八戸市の沖合では、底生有孔虫の群集組成などから、水深200m付近まで津波の影響による堆積物や生物相の再移動が生じたことが示唆された(Toyofuku et al., 2014)。このような大規模な地震が生じた後に、生物相を含む海底環境はどのように変化するのか、あるいは回復するのかを明らかにするため、岩手県沖の大陸棚、水深300 mと998 mにて長期観測海底ステーションで観測を行った。

【方法】
 観測にあたり、チタン製のフレームに流向流速・CTD・DO・濁度計(Aanderaa RDCP600)、LED光源付きハイビジョンカメラシステム(自作)とリチウムイオン電池モジュール(自作)を搭載したステーションを開発した。センサ類は海底面から高さ2.5 mのフレーム部に取り付け、物理・化学データを一時間間隔で取得するよう、またカメラは高さ1 mの箇所に取り付け、画像を一日間隔、4.5分間の映像を一週間間隔で撮影するよう設定した。このステーションを、2013年3月12日に大槌沖の水深300 mの海底に、2012年8月12日に水深998 mにそれぞれ設置した。前者はトロール船で偶発的に回収されたため、観測期間は5ヶ月半となったが、後者は14ヶ月の連続観測となった。

【結果と考察】
 水深300 m地点では、流向・流速は北北東から南南西への成分が卓越し、25時間の移動平均流速は0-30 cm/secであった。温度、水温の変動は大きく、2013年5月初旬には、8 ℃から2 ℃に減少、塩分も水温変化にあわせて33.3から32.8へと減少した。T-Sダイヤグラムの解析より、この時期に親潮系の水塊の流入が生じたことが示唆された。溶存酸素濃度(DO)は290~250 μMの範囲を示したが、数時間~数日の間に100 μM程度に減少、回復する現象が見られた。T-S-DOプロットより、この時にはDOの低い、より深い海水が流入したことが考えられる。濁度は4月中旬から5月初旬にかけて短期間の増加が見られた。この時の海底写真には、マリンスノーと思われる粒子が大量に浮遊する様子が見られた。また、衛星リモートセンシングによって確認されたクロロフィルaの増加時期とも一致した。これらから、この時期の濁度増加はプランクトンブルーミングによると考えられる。底生生物で最も多いのはクモヒトデ類で、海底を埋め尽くしていた。このほか、魚類やイソギンチャクなども確認された。
 水深998 m地点においても、流向は北北東~南南西成分が卓越した。平均流速は0~15 cm/secと、300 m地点より若干小さかった。水温は3℃、塩分は34程度で、安定していた。DOは25-29 μMと低く、この海域の典型的な酸素極小層の値であった。濁度は、2013年2月以降大きく増加した。しかし画像からは濁りの増加は確認できなかったため、センサがバイオフォーリングの影響を受けた疑いがある。海底にはクモヒトデが分布していたが、300 m地点で見られたものとは種類が異なり、生息密度も低かった。また、観測中の2012年12月7日には、東北地方太平洋沖地震の余震と思われる、宮城県沖を震源とする地震(M=7.3)が生じた。この直後、海底には濁りが生じ、海底表面や底生生物が泥で覆われる現象が確認された。しかし、翌日には濁りは晴れ、底生生物群集も地震前と同様の様相を示した。このことから、地震後の撹乱からの底生生物の素早い回復能力が確認された。
 本研究は東北マリンサイエンス拠点形成事業の一環として行った。深海における長期現場観測の事例は少ないが、本研究によって、センサによるデータ取得に加えて画像や動画撮影も含めた長期観測は、海洋環境の長・短期変動や、突発的な堆積イベントとそこからの回復過程の解析に、きわめて有用であることも実証された。