日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS26] 生物地球化学

2015年5月28日(木) 11:00 〜 12:45 104 (1F)

コンビーナ:*楊 宗興(東京農工大学)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:高野 淑識(海洋研究開発機構)、長尾 誠也(金沢大学環日本海域環境研究センター)、渡邉 泉(東京農工大学大学院農学研究院)、横尾 頼子(同志社大学理工学部)

11:45 〜 12:00

[MIS26-11] 炭素同位体比を用いた海藻の生育履歴の推定

*佐藤 菜央美1福田 秀樹1宮入 陽介1横山 祐典1永田 俊1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:海藻, 放射性炭素同位体比, 炭素安定同位体比, 三陸沿岸, 親潮, 津軽暖流

三陸沖の黒潮・親潮域は、世界有数の漁場として知られる生産性の高い海域である。この三陸の沿岸に存在する内湾には、性質が大きく異なる黒潮系と親潮系の海水が季節的に変化しながら流入するという大きな特徴がある。特に顕著なのは冬季に見られる親潮系水の流入イベントである。このイベントは、湾内の環境(水温、栄養塩など)を劇的に変化させ、生物群集に対して大きな影響を及ぼすと考えられている。しかし、親潮流入イベントの規模やタイミングは経年的に大きく変動するため、湾内環境の変化に対する生物群集の生理的応答の実態については不明の点が多い。本研究では、三陸沿岸域に広く分布する底生一次生産者であり、養殖生物としても重要なワカメ(Undaria pinnatifida)を用い、個体に記録された放射性炭素同位体比(Δ14C)と炭素安定同位体比(δ13C)を指標として、親潮流入イベントのタイミングの復元と、イベントに対するワカメの生理的応答を推定する新規手法の検討を試みた。ワカメの成長点は根元にあり、下方から上方に成長する。従って、中心の軸から左右対称に生じる側葉の形成時期は、頂部ほど古く、基部ほど新しい。今、側葉のΔ14Cが、形成時期の溶存態無機炭素(DIC)のΔ14C (Δ14C-DIC)を反映すると仮定すれば、湾内が黒潮系の津軽暖流水(Δ14C-DICが高い)に満たされていた時期に形成された側葉のΔ14Cは高く、一方、親潮系水(Δ14C-DICが低い)の流入後に形成された側葉のΔ14Cは低くなると予想される。
岩手県大槌湾で栽培したワカメの各側葉のΔ14Cと海流の流入状況の対応関係を調べた結果、予想通り、親潮の流入後に形成された側葉は、それ以前に形成された側葉に比べてΔ14Cが顕著に低いことが示された。このことは、親潮流入イベントが、側葉Δ14Cの葉序依存的な変動として記録されていた可能性を示唆する。一方、各側葉のδ13Cは4.7‰の変動幅で大きく変化し、これは、津軽暖流水と親潮水の間でのDICのδ13Cの変動幅(0.22‰)を大きく上回った。このことから、側葉のδ13Cは、ワカメの生理状態(成長速度)の変化に伴う同位体分別効果の変動を反映したものと解釈された。側葉のδ13CとΔ14Cの間に有意な負の相関がみられたことから、親潮水の流入に伴いワカメの成長速度が増加した可能性が示唆された。本手法は、親潮・黒潮域における海況変化の復元と、それに対する海藻の生理的応答を解明する有効な手段となることが期待される。