15:45 〜 16:00
[SMP43-07] 日高変成帯南部に記録された熱輸送について
キーワード:日高変成帯, 泥質片麻岩, 橄欖岩, 熱源, 部分融解
大陸地殻に特有な岩石である花崗岩や安山岩は大陸地殻下の地殻―マントル境界を通して行われた熱・物質輸送によって形成されたものである。熱輸送の機構としては、熱伝導、固体物質流動、火成活動に大きく分けられ、それぞれ異なる時間・空間スケールを持つ。本研究では、日高変成帯南部のニカンベツ川に沿った変成岩類を対象とし、変成帯中に記録された様々な規模の加熱イベントを明らかにし、地殻浅部まで上昇したマントル物質を熱源とする地殻加熱機構の相対的な重要性を評価する。
日高変成体西縁には、マントル由来の橄欖岩体が点在し、最大の幌満橄欖岩体には、1GPa以深では部分的に加熱イベントを経験しつつ上昇し、1GPa以浅で急冷した上昇履歴が記録されている (Ozawa, 2004)。日高変成帯深部の地震波速度構造(Kita et al., 2012)によれば、マントルが日高主衝上断層近傍の地殻浅部まで連続している。このことから、日高変成帯最深部を構成する橄欖岩体が地殻浅所までマントルとの連続性を保ちつつ持ち上げられることによって、地殻に熱的影響を与え、地殻の部分融解やメルトの輸送といった熱輸送を駆動した可能性が示唆される。先行研究では、地質・岩石・地球化学的データに基づいて日高変成岩中の部分融解や生成メルトの挙動について検討がなされている(Osanai et al., 1991; Owada et al., 2003; Tagiri et al., 1988; 志村他, 2006)。これらの研究では、地殻内で固化したマグマに諸現象の熱源を求めるに止まっており、本質的熱源である高温マントルの役割と、その熱の地殻への輸送機構については、検討されていない。
本研究では、北海道日高変成帯南部のニカンベツ川に沿って西から東に順に露出する橄欖岩体、変成岩類、トーナライト岩体を対象として調査を行った。ニカンベツ橄欖岩体とトーナライト岩体の間に分布する変成岩類は、主に縞状ザクロ石黒雲母片麻岩よりなり、多くの優白質脈を含有する厚さ数十メートル程度の角閃岩~グラニュライトの苦鉄質変成岩が挟在する。ザクロ石黒雲母片麻岩は、橄欖岩の近傍で面構造が弱くなるが、大きな剪断変形は確認されず、岩石分布から高角断層で橄欖岩と接していると考えられる。
縞状ザクロ石黒雲母片麻岩とザクロ石と黒雲母を含む優白色脈についてbiotite-garnet温度計(Ferry and Spear, 1978)を、優白色脈を伴う苦鉄質変成岩についてorthopyroxene-clinopyroxene温度計(Lindslay, 1983)を適用して平均組成について温度を計算した。前者の温度は、ニカンベツ橄欖岩体近傍の西側からトーナライト岩体近傍の東側にかけて~1kmで~100℃程度減少してゆく傾向にあると同時に、苦鉄質変成岩分布域において例外的に750℃の高温を示している。また、橄欖岩体に最も近い露頭で求めたザクロ石のコアとリム、黒雲母の平均組成から得られた温度は900℃~750℃であり、縁でMnが富むザクロ石の累帯構造、正累帯構造を示す自形の斜長石、等方的岩石組織などから示唆される部分融解とそれに続く急速な冷却と調和する。斜方輝石温度は約1000~700℃と大きくばらつき、Wo#はコアからリムへと減少することから、高温からの急速な冷却を示唆している。
また、苦鉄質変成岩の母岩中に分布する様々な形態と化学組成を示す脈は、パッチ状の母岩の岩片の取り込み、浸透反応、内部での分化の証拠を持っており、母岩と反応しながらメルトが移動、冷却したと考えられる。これらの脈には分化が進んだものとそうでないものの二つのタイプが存在する。未分化の脈は、高温のメルトが未分化の状態またはわずかに分化した状態で直接深部から移動してきたものであると考えられる。優白質脈は一般に石英を含み、まれにカリ長石を含むことがある。そのようなトーナライト質岩脈は周囲の泥質片麻岩と酷似した化学組成を持つザクロ石を含み、泥質片麻岩の部分融解とその輸送を示唆する。苦鉄質変成岩分布域では、深部からの未分化メルトや地殻浅部で部分融解により生成したメルトの移動が変成岩の局所的な熱源として作用したと推察される。
以上の事から、ニカンベツ橄欖岩体がその東側に位置する変成岩に認められたdT/dz ~100℃ /kmの加熱イベントの熱源となっている可能性が示唆される。数十mの苦鉄質変成岩分布域において、この温度勾配に重複して認められるdT/dz≫100℃/kmの加熱イベントは、マグマ輸送によるものであると考えられる。
日高変成体西縁には、マントル由来の橄欖岩体が点在し、最大の幌満橄欖岩体には、1GPa以深では部分的に加熱イベントを経験しつつ上昇し、1GPa以浅で急冷した上昇履歴が記録されている (Ozawa, 2004)。日高変成帯深部の地震波速度構造(Kita et al., 2012)によれば、マントルが日高主衝上断層近傍の地殻浅部まで連続している。このことから、日高変成帯最深部を構成する橄欖岩体が地殻浅所までマントルとの連続性を保ちつつ持ち上げられることによって、地殻に熱的影響を与え、地殻の部分融解やメルトの輸送といった熱輸送を駆動した可能性が示唆される。先行研究では、地質・岩石・地球化学的データに基づいて日高変成岩中の部分融解や生成メルトの挙動について検討がなされている(Osanai et al., 1991; Owada et al., 2003; Tagiri et al., 1988; 志村他, 2006)。これらの研究では、地殻内で固化したマグマに諸現象の熱源を求めるに止まっており、本質的熱源である高温マントルの役割と、その熱の地殻への輸送機構については、検討されていない。
本研究では、北海道日高変成帯南部のニカンベツ川に沿って西から東に順に露出する橄欖岩体、変成岩類、トーナライト岩体を対象として調査を行った。ニカンベツ橄欖岩体とトーナライト岩体の間に分布する変成岩類は、主に縞状ザクロ石黒雲母片麻岩よりなり、多くの優白質脈を含有する厚さ数十メートル程度の角閃岩~グラニュライトの苦鉄質変成岩が挟在する。ザクロ石黒雲母片麻岩は、橄欖岩の近傍で面構造が弱くなるが、大きな剪断変形は確認されず、岩石分布から高角断層で橄欖岩と接していると考えられる。
縞状ザクロ石黒雲母片麻岩とザクロ石と黒雲母を含む優白色脈についてbiotite-garnet温度計(Ferry and Spear, 1978)を、優白色脈を伴う苦鉄質変成岩についてorthopyroxene-clinopyroxene温度計(Lindslay, 1983)を適用して平均組成について温度を計算した。前者の温度は、ニカンベツ橄欖岩体近傍の西側からトーナライト岩体近傍の東側にかけて~1kmで~100℃程度減少してゆく傾向にあると同時に、苦鉄質変成岩分布域において例外的に750℃の高温を示している。また、橄欖岩体に最も近い露頭で求めたザクロ石のコアとリム、黒雲母の平均組成から得られた温度は900℃~750℃であり、縁でMnが富むザクロ石の累帯構造、正累帯構造を示す自形の斜長石、等方的岩石組織などから示唆される部分融解とそれに続く急速な冷却と調和する。斜方輝石温度は約1000~700℃と大きくばらつき、Wo#はコアからリムへと減少することから、高温からの急速な冷却を示唆している。
また、苦鉄質変成岩の母岩中に分布する様々な形態と化学組成を示す脈は、パッチ状の母岩の岩片の取り込み、浸透反応、内部での分化の証拠を持っており、母岩と反応しながらメルトが移動、冷却したと考えられる。これらの脈には分化が進んだものとそうでないものの二つのタイプが存在する。未分化の脈は、高温のメルトが未分化の状態またはわずかに分化した状態で直接深部から移動してきたものであると考えられる。優白質脈は一般に石英を含み、まれにカリ長石を含むことがある。そのようなトーナライト質岩脈は周囲の泥質片麻岩と酷似した化学組成を持つザクロ石を含み、泥質片麻岩の部分融解とその輸送を示唆する。苦鉄質変成岩分布域では、深部からの未分化メルトや地殻浅部で部分融解により生成したメルトの移動が変成岩の局所的な熱源として作用したと推察される。
以上の事から、ニカンベツ橄欖岩体がその東側に位置する変成岩に認められたdT/dz ~100℃ /kmの加熱イベントの熱源となっている可能性が示唆される。数十mの苦鉄質変成岩分布域において、この温度勾配に重複して認められるdT/dz≫100℃/kmの加熱イベントは、マグマ輸送によるものであると考えられる。