日本地球惑星科学連合2015年大会

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ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS22] 太陽系における惑星物質の形成と進化

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*伊藤 正一(京都大学大学院理学研究科)、臼井 寛裕(東京工業大学地球惑星科学科)、瀬戸 雄介(神戸大学大学院理学研究科)、宮原 正明(広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻)、木村 眞(茨城大学理学部)、大谷 栄治(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、薮田 ひかる(大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻)

18:15 〜 19:30

[PPS22-P14] 月隕石に存在する水の痕跡

*鹿山 雅裕1富岡 尚敬2大谷 栄治3瀬戸 雄介1福田 惇一4関根 利守5宮原 正明5小澤 信3三宅 亮6留岡 和重1Timothy Fagan7西戸 裕嗣8 (1.神戸大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻、2.海洋研究開発機構高知コア研究所、3.東北大学大学院理学研究科地学専攻、4.Department of Geology and Geophysics, Texas A&M University、5.広島大学大学院理学研究科、6.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地質学鉱物学教室、7.早稲田大学教育学部地球科学専修、8.岡山理科大学生物地球学部)

アポロ計画により回収された月の岩石試料からは含水鉱物の存在や水質変成作用の痕跡は見出されておらず、全岩分析からも含水量は1 ppb以下であると推定されていた(例えば、Taylor et al. 2006)。このことから、月は表面から内部におよぶまで水に枯渇した環境であると考えられてきた。しかし最近では、チャンドラヤーン1号によるリモートセンシングを用いた月面観測から、反射スペクトルにおいて多量の水分子やOH基が検出されており(Pieters et al. 2009)、物質科学の分野においても、月のマグマ過程初期に生成した玄武岩に属するアポロ試料から46 ppmもの水を含む火山ガラスが発見され(Saal et al. 2008)、また斜長岩からは5~6.4 ppmもの構造水を有する斜長石が見出されている(Hui et al. 2013)。さらに、はんれい岩質クラストを有する月隕石NWA2977からは、0.7~1.7 wt.%もの多量な構造水をもつアパタイトが報告されている(McCubbin et al. 2010)。このように、最近の研究から月には従来推定されてきた以上に多くの水が存在することが提唱されてきたものの、直接的な証拠はまだまだ少ない現状である。さらに、月の水に関する研究の多くは表面に分布する岩石を対象にしたものにすぎず、月深部に分布する岩石の含水量についてはほとんど議論されていない。本研究では、化学組成ならびに結晶化年代から月深部にてマグマ過程末期の残液から晶出したとされている玄武岩質・はんれい岩質の月隕石を対象に電子顕微鏡ならびに分光分析を用いて鉱物学的記載ならびに構成鉱物の含水量の評価を試みた。
電子顕微鏡観察の結果、この月隕石は玄武岩質およびはんれい岩質クラストとクラストの間を埋める礫化した基質から構成される。玄武岩質クラストには数十μmほどのシリカ粒子が点在し、これは放射光X線回折ならびにラマン分光分析から石英と同定された。Charles et al(1971)によると、月のような水に欠乏した環境では深さ10 km以上でのみ石英が生成すると示唆されており、このことからもこの月隕石は深部で産出したことが分かる。さらに、礫化した基質においてのみモガナイトを含む数十μmのシリカ粒子が確認された。衝撃溶融脈においては、モガナイトを含むシリカ粒子の外縁に高圧相であるコーサイトやスティショバイトが分布する。このことから、モガナイトは地球上での風化作用や衝突の際の逆相転移に由来せず、月起源の産物といえる。ラマン分光分析によるピークの相対強度から、このシリカ粒子のモガナイト含有量は最大で90 wt%以上であることが判明した。地球上で産するモガナイトの生成には水が関与しており、含有量が20%を超えるものはすべてアルカリ流体からの蒸発岩起源とされている(Heaney and Post 1992)。さらに、モガナイトはカルサイトを伴い、ヒュージョン・クラスト付近や衝撃溶融脈中のカルサイトには発泡した痕跡や溶融ガラスとの共存が認められる。このことから、モガナイトと共にカルサイトも月起源と考えられ、その生成に流体が大きく関与していたことが推察される。これらの事実は月深部において流体活動が生じていたことを意味しており、月内部の形成過程に水が大きく作用したことを示唆している。今後は玄武岩質およびはんれい岩質クラストの主要構成鉱物であるかんらん石、輝石および長石を対象とした顕微赤外吸収分析を行い、各鉱物における含水量の定量評価を試みる。