12:00 〜 12:15
[AHW27-12] 面源負荷原単位の簡易推定法の提案、およびその妥当性の検討
キーワード:土地利用, 面源窒素負荷, 原単位, 地下水, 河川水
1.目的
近年、主に化成窒素肥料の生産に起因して、環境中に活性な窒素が増加している。その結果、水質汚染,大気汚染,温室効果,成層圏オゾン破壊,富栄養化,および酸性化など多様な環境問題が生じている。産業系・事業所系の点源負荷は規制が進んでいるが、面源からの負荷は定量が難しく、規制されていない現状である。本報では、既存のデータを利用して窒素面源負荷量を推定する方法を示し、その妥当性を検討する。
2.研究方法
対象地域は香川県の26河川流域(1,342 km2)である。著者らは前報で、その26河川水およびその流域の地下水のNO3-N濃度と、農地に施用された余剰窒素に関係があることを示した。本報では、26河川流域の各土地利用割合と、河川水のT-N濃度、あるいは地下水の流域平均NO3-N濃度の間の重回帰分析により、土地利用ごとのいわゆる「濃度原単位」を求めた。さらに河川流量および地下水流量を乗じることにより、土地利用ごとの「負荷原単位」を求めた。求めた負荷原単位について、一河川(金倉川)流域を対象として、1994~1995年、および2007~2008年に測定した浅層地下水水質、および、その2時期の耕地面積等の関係を調べることにより、この方法で求めた負荷原単位の妥当性の検証を試みた。解析には、市町ごとの主要農産物の作付面積、施肥基準、作物の吸収窒素量データ、浅層地下水NO3-N濃度データ、河川水質・流量・水位データ、金倉川流域の市町村別の農地面積、土地利用別蒸発散データ、香川用水農業用水配水実績データ等を用いた。
3.結果および考察
窒素濃度原単位は、地目別に畑、水田、森林、市街地について、河川水ではそれぞれ9.0,3.6,0.8,3.6 mg L-1(望月ら2013)、地下水ではそれぞれ15.2,10.3,2.3,2.5 mg L-1であった(市街地では、点源負荷すべてが下水処理場を経て海域に排出されるわけではないため、不確かさを含む)。この濃度原単位に香川県の平均河川流量2134 t ha-1(高橋ら2010)、および、推定地下水流量481 t ha-1 (清水ら2009) を乗じることにより、畑、水田、森林、市街地それぞれの窒素負荷原単位26.6,12.6,2.8,8.8 kg ha-1 y-1を得た。これらは、環境省で採用している窒素負荷原単位と近い。
次に、金倉川流域を対象に、上記2時期の水および窒素収支を推定した。降水量は上流、中流、下流の近傍の雨量観測地の11年間(2002~2012年)のデータの平均値1159mm、香川用水農業用水の金倉川流域への平均配水量は入手した1994~2005のデータの平均値177mm、および、蒸発散量は香川県の測定データ(三野ら1965)等の水田1131mm、畑地932mm、森林・樹園地745mm、市街地562mm、水域800mm、金倉川の流量は、2000~2006年の水位と流量データの解析による406mmを用いた。その結果、地下への浸透量は2時期でそれぞれ158mm, 148mmと計算された。金倉川流域内の湧水のNO3-N濃度は1994~1995年では下流に向かうほど上昇する傾向が見られたのに対して、2007~2008年ではその傾向は小さくなっていた。金倉川流域内の耕地面積は23.8 % から21.4 % に減少し、流域内の算定農耕地由来余剰窒素(施用N-吸収N)は31.1 kg ha-1から27.2 kg ha-1 に減少した。上記で求めた原単位と土地利用割合から計算すると、上記の2時期において農地からの余剰窒素は全体の余剰窒素のそれぞれ72%、69%に相当し、流域全体の算出余剰窒素は43.2 kg ha-1から39.7 kg ha-1に減少した(海域に直接流出する事業所系の負荷は含んでいない)。河川水中の全窒素濃度は、2.5 mg L-1から2.4 mg L-1に低下し、流域の地下水NO3-N濃度は河口付近では、およそ8 mg L-1 から6 mg L-1に低下した。上記の2時期において流域全体の余剰窒素が河川水と地下水に均等に溶存すると仮定すると、窒素濃度はそれぞれの7.8 mg L-1、7.0 mg L-1となり、河川・地下水経由で海岸に達する窒素量は流域全体の余剰窒素のそれぞれ51%と48%と計算された。流域で発生する余剰窒素は河川や地下水に到達する過程および流下する過程で都市域源流河川以外では脱窒や水生植物による吸収等で半分あるいはそれ以上減少する事例が示されている(和田・三浦 1985)。この流域でも同様の結果が得られ、本報による原単位推定がおおむね妥当であることを示唆する。
近年、主に化成窒素肥料の生産に起因して、環境中に活性な窒素が増加している。その結果、水質汚染,大気汚染,温室効果,成層圏オゾン破壊,富栄養化,および酸性化など多様な環境問題が生じている。産業系・事業所系の点源負荷は規制が進んでいるが、面源からの負荷は定量が難しく、規制されていない現状である。本報では、既存のデータを利用して窒素面源負荷量を推定する方法を示し、その妥当性を検討する。
2.研究方法
対象地域は香川県の26河川流域(1,342 km2)である。著者らは前報で、その26河川水およびその流域の地下水のNO3-N濃度と、農地に施用された余剰窒素に関係があることを示した。本報では、26河川流域の各土地利用割合と、河川水のT-N濃度、あるいは地下水の流域平均NO3-N濃度の間の重回帰分析により、土地利用ごとのいわゆる「濃度原単位」を求めた。さらに河川流量および地下水流量を乗じることにより、土地利用ごとの「負荷原単位」を求めた。求めた負荷原単位について、一河川(金倉川)流域を対象として、1994~1995年、および2007~2008年に測定した浅層地下水水質、および、その2時期の耕地面積等の関係を調べることにより、この方法で求めた負荷原単位の妥当性の検証を試みた。解析には、市町ごとの主要農産物の作付面積、施肥基準、作物の吸収窒素量データ、浅層地下水NO3-N濃度データ、河川水質・流量・水位データ、金倉川流域の市町村別の農地面積、土地利用別蒸発散データ、香川用水農業用水配水実績データ等を用いた。
3.結果および考察
窒素濃度原単位は、地目別に畑、水田、森林、市街地について、河川水ではそれぞれ9.0,3.6,0.8,3.6 mg L-1(望月ら2013)、地下水ではそれぞれ15.2,10.3,2.3,2.5 mg L-1であった(市街地では、点源負荷すべてが下水処理場を経て海域に排出されるわけではないため、不確かさを含む)。この濃度原単位に香川県の平均河川流量2134 t ha-1(高橋ら2010)、および、推定地下水流量481 t ha-1 (清水ら2009) を乗じることにより、畑、水田、森林、市街地それぞれの窒素負荷原単位26.6,12.6,2.8,8.8 kg ha-1 y-1を得た。これらは、環境省で採用している窒素負荷原単位と近い。
次に、金倉川流域を対象に、上記2時期の水および窒素収支を推定した。降水量は上流、中流、下流の近傍の雨量観測地の11年間(2002~2012年)のデータの平均値1159mm、香川用水農業用水の金倉川流域への平均配水量は入手した1994~2005のデータの平均値177mm、および、蒸発散量は香川県の測定データ(三野ら1965)等の水田1131mm、畑地932mm、森林・樹園地745mm、市街地562mm、水域800mm、金倉川の流量は、2000~2006年の水位と流量データの解析による406mmを用いた。その結果、地下への浸透量は2時期でそれぞれ158mm, 148mmと計算された。金倉川流域内の湧水のNO3-N濃度は1994~1995年では下流に向かうほど上昇する傾向が見られたのに対して、2007~2008年ではその傾向は小さくなっていた。金倉川流域内の耕地面積は23.8 % から21.4 % に減少し、流域内の算定農耕地由来余剰窒素(施用N-吸収N)は31.1 kg ha-1から27.2 kg ha-1 に減少した。上記で求めた原単位と土地利用割合から計算すると、上記の2時期において農地からの余剰窒素は全体の余剰窒素のそれぞれ72%、69%に相当し、流域全体の算出余剰窒素は43.2 kg ha-1から39.7 kg ha-1に減少した(海域に直接流出する事業所系の負荷は含んでいない)。河川水中の全窒素濃度は、2.5 mg L-1から2.4 mg L-1に低下し、流域の地下水NO3-N濃度は河口付近では、およそ8 mg L-1 から6 mg L-1に低下した。上記の2時期において流域全体の余剰窒素が河川水と地下水に均等に溶存すると仮定すると、窒素濃度はそれぞれの7.8 mg L-1、7.0 mg L-1となり、河川・地下水経由で海岸に達する窒素量は流域全体の余剰窒素のそれぞれ51%と48%と計算された。流域で発生する余剰窒素は河川や地下水に到達する過程および流下する過程で都市域源流河川以外では脱窒や水生植物による吸収等で半分あるいはそれ以上減少する事例が示されている(和田・三浦 1985)。この流域でも同様の結果が得られ、本報による原単位推定がおおむね妥当であることを示唆する。