日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS23] 海洋生態系モデリング

2015年5月24日(日) 14:15 〜 16:00 201B (2F)

コンビーナ:*伊藤 進一(東京大学大気海洋研究所)、平田 貴文(北海道大学地球環境科学研究院)、座長:伊藤 進一(東京大学大気海洋研究所)

15:45 〜 16:00

[AOS23-07] ニッチ分割に基づく植物プランクトン多様性の考察

*増田 良帆1山中 康裕1 (1.北海道大学 地球環境科学研究院)

キーワード:植物プランクトン多様性, 海洋生態系モデル, 海洋大循環モデル

海洋の植物プランクトンは多様性に富んでおり、数万種が存在すると見積もられている(Guiry, 2012)。海洋が比較的単調な環境であるにもかかわらず、このような多様性があるのは驚きであり、共存を可能とする様々なメカニズムが提案されている。本研究では特にニッチ分割に着目し、このメカニズムによってどこまで植物プランクトンの種数を説明できるか研究した。研究手法としては海洋大循環モデル(OGCM)を用いた。海洋では移流・拡散による空間間の相互作用が多様性に重要な影響を及ぼしていると考えられ、この影響についても研究した。
 海洋低次生態系モデルNEMURO、MEMを基に開発した植物プランクトン多様性モデルを、気象研究所共用海洋モデル(MRI.COM)に組み込んだ。物理場は理想化した亜熱帯循環と亜寒帯循環を再現しており、計算領域は東西30度×南北30度の矩形領域である。移流・拡散の影響を考察する為にオフラインモデル(以下、0Dモデル)も開発した。このモデルでは温度・栄養塩・光はMRI.COMで計算されたものを用い、植物・動物プランクトン濃度のみを計算する。格子間の植物・動物プランクトンの移流・拡散は0にしてあるので、MRI.COMの結果と比較することで移流・拡散の影響を同定できる。
MRI.COMで温度・栄養塩・光特性の異なる240種の植物プランクトンを競争させた結果31種が生き残った。一方、同じ240種を0Dモデルで競争させると85種が生き残った。0Dモデルでは基本的に1格子には1種しか生き残れなかった。よって移流・拡散はα多様性を増加させるが、γ多様性を減少させる。個々のケースを詳しく調べると移流・拡散によって、ある種が競争力の高い海域から競争力の低い海域へと輸送されてしまい、最終的に絶滅するケースが見出された。
生き残った31種を最適温度(ニッチ)の僅かに異なる8種に分裂させ、248種を競争させる実験を行った。生き残ったのは125種であったが、これは上限の種数では無く、更なるニッチ分割が状況によっては可能であると考えられる。共存可能な種について調べると、最適温度が0.1度程度の違いしかないケースが存在することが判った。ニッチの僅かな違いがあるだけで共存可能という事は海洋の莫大な植物プランクトン数を説明するのに重要な一歩であると考えられる。