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★ [HDS27-01] S-netデータを用いた津波浸水予測システムの開発
キーワード:津波, 津波即時予測, 津波浸水予測, S-net
2011年東北地方太平洋沖地震では、初期段階において推定・予測した津波規模が実際と比較して大きく下回ったことや停電などにより津波情報が住民に十分に伝わらなかったことが被害を拡大した。このことからも明らかなように、津波被害を軽減するためには巨大地震に伴い発生する津波を即時に予測し、住民避難のために必要な情報を適切に提供する事が極めて重要である。東北地方太平洋沖地震の発生時には房総沖から釧路・根室沖にかけての広大な海域は観測の空白域であり、迅速かつ適切な津波即時予測を行うために不可欠な観測データが乏しかった。このことから、防災科研では文部科学省の補助金により、当該海域にS-net(日本海溝海底地震津波観測網)を構築している(金沢・他, 2012, JpGU;Uehira et al., 2014, AOGS;植平・他, 2015, 本大会)。S-netは、全長約5700kmの海底ケーブルで接続され海底に設置された金属製の耐圧容器の観測装置150点からなり、各々には水圧計及び地震計がインストールされている。このような大規模かつ稠密なリアルタイム海底観測網は世界でも類を見ないものであり、これらのデータを活用することで津波を現状より最大20分程度早く直接検知し、緊急地震速報を最大30秒程度早く出すことが出来るようになると期待される。本研究では、S-net等から得られるデータを用いて沖合で津波の発生を直接検知するとともに津波の沿岸波高のみならず遡上を即時推定するためのシステムを、最初にS-netの観測の開始が予定されている房総沖に面する外房地域(千葉県太平洋沿岸)を対象に開発している。沖合津波観測データを用いた津波予測手法は、津波波源を逆解析で推定し順計算により沿岸波高や浸水を予測する手法(例えばTsushima et al., 2012)や、沖合津波波高と沿岸波高の関係式による手法(例えばBaba et al., 2013)などこれまでも多くの既往研究がある。本研究では、比較的高計算負荷かつ非線形現象である津波遡上の予測を目的にしていることから、事前に数多くの震源シナリオに対する浸水状況をデータバンクとして用意し、観測データと時空間マッチング(Yamamoto et al., 2014, AGU;鈴木・他, 2015, 本大会)を行うことによりシナリオを絞り込み、浸水予測を行う。このような検索型手法と稠密な沖合観測データの組み合わせにより、大きな推定誤差の原因になり得る震源(津波波源)情報に立ち戻ることなく浸水の推定を直接行うことが本研究の特徴の一つである。津波遡上を精度高くシミュレーションするために対象地域である外房地域において10m分解能の沿岸地形モデルを構築するとともに局所細分化適合格子法による津波シミュレーションモデル(前田・他, 2015, 本大会)を構築している。この際、防潮堤などの津波防護施設の破壊の効果を取り込むため構造物はラインデータとしてモデル化する。また、計算負荷の高い浸水シミュレーションは数千ケース程度しか実施できないことから、効果的に波源モデルを設定してバンクを構築することが高精度な推定を行う上で重要となるため、線形長波理論に基づく低負荷な計算による感度解析により対象地域での津波波高をおおまかに評価しバンクに取り込むべき波源モデルを設定する。観測データや予測情報を分かりやすく提供し住民避難に繋げる試みとして、地震及び津波をリアルタイムで実況する地震・津波モニタや利活用しやすく情報を提供可能とするAPI(Application Programming Interface)を試作した。今後、自治体等と協同して行う実証実験の結果をフィードバックし高度化を目指す。