日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-02] 総合的防災教育

2015年5月24日(日) 16:15 〜 17:00 106 (1F)

コンビーナ:*中井 仁(小淵沢総合研究施設)、宮嶋 敏(埼玉県立深谷第一高等学校)、根本 泰雄(桜美林大学自然科学系)、座長:中井 仁(小淵沢総合研究施設)

16:30 〜 16:45

[G02-06] 三陸鉄道の『震災学習列車』運行による東日本大震災に関する防災学習活動

*倉又 茂1二橋 守2 (1.三省堂理科教科書編集部、2.三陸鉄道株式会社 北リアス運行部)

キーワード:三陸鉄道, 震災学習列車, 防災学習, 津波・地震, 復興, 東日本大震災

「三陸鉄道の『震災学習列車』運行による東日本大震災に関する防災学習活動」についての報告である。
① 3.11東日本大震災では、三陸沿線を走る「三陸鉄道」(略して「三鉄」)もその施設、線路などに被害を受け、大小317カ所もの被災箇所を持つに至り、運転停止に至った。この「三陸鉄道」は、岩手県の太平洋沿岸を走る第三セクター鉄道(1984年(昭和59年)開業)で、久慈ー宮古間の「北リアス線」と、釜石ー盛(大船渡)間の「南リアス線」の2路線で構成された鉄道である。
北リアス線、南リアス線の両路線は、地震動と津波による大きな被害を受けた。特に、津波による被害が甚大であった。被害の状況が明らかになるにつれ、運転再開は「絶望」だと思ったようだ。
② しかしながら、このように大きな被害を受けたにも関らず、震災の5日後の3月16日に、久慈ー陸中野田の区間で『災害復興支援列車』(運賃無料)の部分運行を行った。続く3月20日に宮古ー田老の区間でも運行を再開した。
3.11直後から、地元住民が「安否確認」「食料の調達」などで、三鉄の線路上を通行路として利用していたが、これを見て、地元住民の生活応援と町の復興への支援をしなければならない、と考えた。これは、開業以来、三鉄が培ってきた地元住民との繋がり、信頼関係の結果であった。運行した結果、「希望」、「安心」も運行とともに運ぶことができた。また、この成功が、全線再開へのステップになった。
③ 5月2日から、三鉄は自治体関係、企業向けに、災害現場を案内する『フロントライン研修』を実施した。これは災害現場を視察したいという要望に応える「営業」を始めたものである。
④ 『フロントライン研修』とは別に、1年後の2012年6月13日に、久慈市の「ふるさと体験学習協会」の「体験型教育旅行」プログラムで「キズナ強化プロジェクト・アメリカ訪日団」(学生団体)が来日した。この時、三陸鉄道の社員の二橋が被災現場を案内した。訪問団は、実際に三陸鉄道に乗車し、二橋が被災現場の説明をした。
このときの学生らの反応は、
「日本で起きた震災のことを一人でも多くの方に伝えたい」
「海外から応援します」
など、非常に感動するものであった。このことから、学生をはじめ、一般の方々に実際の被災現場を観てもらうという必要性が実感でき、「被災した企業として、後世に伝えることも使命」であることを理解した。そこで、『震災学習列車』の運行を三陸鉄道として行うことが決まった。
『震災学習列車』のプログラムは、完全予約制で、車両は貸切となり、臨時列車で運行される。
1車両に1名のガイドが付き、被災状況が見れる場所では列車を止めたり徐行などして、震災当時の様子や「今」の被災地の状況や問題などをパネルなどを使い説明する。ガイドは三陸鉄道社員か沿線住民から選択される。ガイドの説明する内容は統一しておらず、各自が想うことをストレートに話すこととしている。
⑤ 3.11以降、被災地現場を見学したい、理解したいという希望が国内外からあった。しかし、その受け入れ組織がない状況の中で、三陸鉄道はよい受け入れ団体となっていった。2012年6月の『震災学習列車』開始以来、徐々にこのプログラムへの申込が増えて行った。
これまでの実績は、以下の通りとなっている。
 2012年度 27団体 1472名
 2013年度 146団体 6571名
 2014年度 251団体 10470名
 現在、『震災学習列車』の主なねらいは、次のようである。
・東日本大震災の経験と教訓を後世に継承し、今後の防災教育の現場として貢献したい。
・『震災学習列車』を核とし、地域復興のために三陸地域に旅行者を誘致し、地域の観光産業の振興に貢献したい。
・地域鉄道として存続のための乗車人員の確保と収益の確保に貢献したい。
⑥ 今年から、JR東日本によって「JR山田線の被災部分=宮古?釜石間」の復興建設が始まる。
将来、三陸鉄道に運営が移管される際は、この区間でも『震災学習列車』の運行を考えている。
⑦ 参考文献:「さんてつ」吉本浩二著 新潮社
       「線路はつながった:三陸鉄道 復興の出発点」冨手淳著 新潮社
       「三陸鉄道 情熱復活物語」品川雅彦著 三省堂