18:15 〜 19:30
[MIS26-P12] 窒素負荷による樹木根の変化と倒伏のリスク
キーワード:窒素飽和, 樹木根, 倒伏
[はじめに]
産業革命以降、人為起源による無機態窒素沈着量が増加している(Galloway, 2004)。現在までに、窒素沈着量増加に対する植物への影響として、病原体微生物への抵抗性低下や、root/shootバイオマス比の減少、菌根菌感染率の低下などの報告がある(Veresoglou et al., 2012; Gojon et al., 1994; van Diepen et al., 2010)。しかしそれらの多くは草本または苗木を用いた研究であり、実環境中における成木への影響を検討した例はほとんどない(Meyer et al., 2008 など)。root/shootバイオマス比低下などの根の変化は、樹体の支持強度を低下させ、林木の倒伏を増加させる要因となりうる。そこで窒素が過剰な森林の成木について、倒伏現象の要因となりうる樹木根の量の低下や強度低下がどれほどみられるのか、また実際に倒伏リスクの高い個体が多く存在するのか、現地調査により検討した。
[方法]
窒素飽和現象が報告されている東京農工大学FM多摩丘陵、中程度の窒素負荷を受ける飯能市刈場坂峠、窒素負荷をあまり受けない北茨城市小川試験地で調査を行った。それぞれ集水域の渓流水中硝酸態窒素濃度は280、86、16 μmol/Lであった。各調査地はいずれも落葉広葉樹林であり、標高は150~650 m、斜面の傾斜は22~35°である。
調査地ではコナラ(Quercus serrata)、ヤマザクラ(Cerasus jamasakura)を対象に、樹体から斜面上方向1 m地点の土壌と根をコアサンプラーで採取し(直径7.5 cm、深度40 cmまで採取)、根は直径>2 mm、<2 mmに分けて乾重量を測定、土壌は水抽出により硝酸態窒素濃度を測定した。また、生長錐を用いて幹と主要な根のコアを約15 cm採取し、全乾密度、曲げヤング率を計測した。加えて樹体の斜面下方向への幹傾斜(地面より20 cmから胸高までの傾き)も計測した。
[結果と考察]
根の量(直径>2 mm、<2 mm)はコナラ・ヤマザクラともに土壌中硝酸濃度の増加にともなって約60%の減少がみられた。特に直径の大きな>2 mmの根の減少は、根の引き抜き強度低下をもたらし、倒伏リスクを高める要因になりうる。ヤマザクラのコア試料では有意な差はみられなかったが、コナラの根のコア試料では土壌中硝酸濃度の上昇とともに根の全乾密度と曲げヤング率が減少する傾向がみられ、窒素負荷による材の強度低下が示唆された。窒素負荷の大きい多摩丘陵の斜面上に立つコナラは、小川と比べ幹傾斜が有意に大きかった。
以上のように、窒素過剰によって樹木の支持強度にかかわる根量の低下や材の強度低下が生じており,また実際に傾きの大きい樹体が多い事実が判明した。
産業革命以降、人為起源による無機態窒素沈着量が増加している(Galloway, 2004)。現在までに、窒素沈着量増加に対する植物への影響として、病原体微生物への抵抗性低下や、root/shootバイオマス比の減少、菌根菌感染率の低下などの報告がある(Veresoglou et al., 2012; Gojon et al., 1994; van Diepen et al., 2010)。しかしそれらの多くは草本または苗木を用いた研究であり、実環境中における成木への影響を検討した例はほとんどない(Meyer et al., 2008 など)。root/shootバイオマス比低下などの根の変化は、樹体の支持強度を低下させ、林木の倒伏を増加させる要因となりうる。そこで窒素が過剰な森林の成木について、倒伏現象の要因となりうる樹木根の量の低下や強度低下がどれほどみられるのか、また実際に倒伏リスクの高い個体が多く存在するのか、現地調査により検討した。
[方法]
窒素飽和現象が報告されている東京農工大学FM多摩丘陵、中程度の窒素負荷を受ける飯能市刈場坂峠、窒素負荷をあまり受けない北茨城市小川試験地で調査を行った。それぞれ集水域の渓流水中硝酸態窒素濃度は280、86、16 μmol/Lであった。各調査地はいずれも落葉広葉樹林であり、標高は150~650 m、斜面の傾斜は22~35°である。
調査地ではコナラ(Quercus serrata)、ヤマザクラ(Cerasus jamasakura)を対象に、樹体から斜面上方向1 m地点の土壌と根をコアサンプラーで採取し(直径7.5 cm、深度40 cmまで採取)、根は直径>2 mm、<2 mmに分けて乾重量を測定、土壌は水抽出により硝酸態窒素濃度を測定した。また、生長錐を用いて幹と主要な根のコアを約15 cm採取し、全乾密度、曲げヤング率を計測した。加えて樹体の斜面下方向への幹傾斜(地面より20 cmから胸高までの傾き)も計測した。
[結果と考察]
根の量(直径>2 mm、<2 mm)はコナラ・ヤマザクラともに土壌中硝酸濃度の増加にともなって約60%の減少がみられた。特に直径の大きな>2 mmの根の減少は、根の引き抜き強度低下をもたらし、倒伏リスクを高める要因になりうる。ヤマザクラのコア試料では有意な差はみられなかったが、コナラの根のコア試料では土壌中硝酸濃度の上昇とともに根の全乾密度と曲げヤング率が減少する傾向がみられ、窒素負荷による材の強度低下が示唆された。窒素負荷の大きい多摩丘陵の斜面上に立つコナラは、小川と比べ幹傾斜が有意に大きかった。
以上のように、窒素過剰によって樹木の支持強度にかかわる根量の低下や材の強度低下が生じており,また実際に傾きの大きい樹体が多い事実が判明した。