日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT30] UAVが拓く新しい世界

2015年5月25日(月) 16:15 〜 18:00 101A (1F)

コンビーナ:*近藤 昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、井上 公(防災科学技術研究所)、長谷川 均(国士舘大学文学部地理学教室)、齋藤 修(茨城大学)、座長:近藤 昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)

17:30 〜 17:45

[HTT30-05] 小型UAVによる水稲の生育状況診断

*田中 圭1近藤 昭彦2 (1.日本地図センター、2.千葉大学環境リモートセンシング研究センター)

キーワード:小型UAV, NDVI, オルソ画像, DSM, 水稲モニタリング

1.はじめに
近年,解像度の高い空中写真(斜め・垂直写真)を容易に取得することができる小型UAV(Unmanned Aerial Vehicle)が登場し,非熟練者でも近接リモートセンシングが実施できるようになった.小型UAVは低空(対地高度150mまで)から撮影できるため,曇天でも対象との間に霧や雲がなければデータを得ることができる.そのため,時間および空間解像度が高い情報を取得することが可能となった.UAVは既に,地図作成(小笠原諸島西之島),災害現場(広島土砂災害,御嶽山降灰調査など),空間線量率計測といった様々な分野で運用されている.
本研究は小型UAVによる高品質な地理空間情報を用いて,詳細な水稲の生育モニタリングを試みた.既往研究では,衛星・航空機を用いた農作物のモニタリング手法が実用化されている.しかし,衛星・航空機の場合は頻繁に生育状況の情報を取得することは難しく,また,天候にも左右されやすい.一方,小型UAVはこれらに比べて,頻繁に情報取得ができる上に運用費用が安価である.このことから,今後その需要性が高まると考えられる.

2.モニタリング手法
1)対象場所・期間
埼玉県坂戸市の水田(3.2反:36m×88m)を対象に,2014年5月中旬~9月中旬にかけて,週1回の頻度で水稲(コシヒカリ)のモニタリングを実施した.
2)撮影
生育状況の診断のために,可視画像(AW1:Nikon社)と近赤外画像(GoPro3:Woodman Labs社)の空撮を行った.GoPro3に使用されているイメージセンサは,近赤外域にも感度を持っているため,近赤外線透過フィルター(富士フィルム社)を通すことで,簡易型近赤外カメラとして撮影できる.これらのカメラを搭載し,撮影画像の品質保持および操縦者の負担を軽減するため,事前に飛行ルートを設定し,自律飛行を実施した.撮影した画像は, SfM ソフト(PhotoScan)を用いて,オルソ画像(可視画像,近赤外画像)・DSMを作成した.
3)解析
圃場を5m×5mのメッシュに区切り(合計:119メッシュ),詳細なモニタリングを行った.メッシュ内に含まれるNDVI(近赤外画像から計算)を指標とし、場所による生育状況の違いまとめた.
4)検証
全メッシュから数メッシュの水稲をサンプリングし、NDVIと収量の関係を求め、実際の収量との検証を行った.

3.結果
圃場全体のNDVIは,移植期~分げつ期で上昇し,その後の幼穂形成期~出穂期はほぼ一定となり,登熟期に入ってから下降した. しかし、メッシュごとにNDVI値をみると、取水口と排水口周辺では、生育状況に違いが生じた.この違いは、サンプリングした水稲の単位収量(g/㎡)にも反映された.
NDVIと水稲の収量の相関は、幼穂形成~出穂期にかけてのNDVIとの相関が最も高い結果となった.このときの相関式をもとに圃場全体の収量と実際の収量の検証した結果、±5%の誤差で収量を推定することができた.

4.まとめ
衛星・航空機を用いたモニタリングの場合は,出穂してから10~20日後の撮影データを使用して,お米のおいしさを決めるたんぱく質含有量分布図を農家へ通知している.いわゆる「お米の成績表」となっている.一方,小型UAVはリアルタイム測定ができるため,生育状況から追肥等の検討や倒伏の予測ができ,迅速な対応が可能である.また,数年間モニタリングを実施し,NDVIと収量の相関が確立できれば,稲刈り前に収量を予測することも可能となってくる.このことから,農業分野においても小型UAVの活用が大いに期待できる.