日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG34] 原子力と地球惑星科学

2015年5月26日(火) 09:00 〜 10:45 101A (1F)

コンビーナ:*笹尾 英嗣(独立行政法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、吉田 英一(名古屋大学博物館)、座長:笹尾 英嗣(独立行政法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)

09:15 〜 09:30

[HCG34-02] 地層処分場のサイト選定における水理学的コンパートメント構造とその意義について

*竹内 真司1貴島 望文1 (1.日本大学)

キーワード:水理学的コンパートメント構造, 地層処分, サイト調査, 高レベル放射性廃棄物, 地質図ナビ

1.はじめに
変動帯に位置する日本列島には多くの断層が存在し、特に、トレース長がキロメートルオーダーの断層については、その多くが破砕帯の中央部(コア部)に細粒の粘土物質を含み、その両側にダメージゾーンを伴う、いわゆるサンドイッチ構造を呈することが知られている。このコア部の粘土物質の存在により、断層に直交する方向の透水性は、断層に平行な方向のそれと比べると低くなることが知られている(Caine et al. 1996)。仮に低透水性の断層で四方を囲まれた領域(以下、水理学的コンパートメント構造(HGCS))の中に処分坑道を建設した場合、排水に伴う水位低下領域は、主としてHGCSの内側に限定され、その外側での水位変動は内側に比べて小さくなるとともに、排水停止後は、HGCS外側からの流入が少ないため、水位回復には時間を要することが予想される。また、HGCS内側では、外側の後背地の影響が緩和されることから動水勾配が小さくなり、流速が小さくなることが期待される。この水理学的コンパートメント構造については、(独)日本原子力研究開発機構の瑞浪超深地層研究所において実施された、揚水試験、地震に伴う水圧応答、さらには地下研究施設建設に伴う水圧変動などにより、その詳細が明らかにされてきている(Salden et al. 2005、三枝ほか2007、尾上ほか2008、竹内ほか2013など)。このようなHGCSは、日本列島には多数存在する可能性があり、地層処分場のサイト選定において考慮すべき構造となる可能性がある。
そこで本研究では、日本列島における地質図の判読に基づき、断層で囲まれたコンパートメント構造の分布とその特徴について検討した。さらに、この結果に基づき、サイト選定における水理学的コンパートメント構造の特徴と課題等について検討した。
2.我が国におけるコンパートメント構造の分布
(独)産業技術総合研究所が公開している地質図Naviに記載された断層で囲まれた領域をコンパートメント構造として認定した。具体的には、北海道、東北、関東、北陸、中部、近畿、中国、四国、九州の9地方において、上記断層に囲まれた領域の面積が100㎞2以下となるコンパートメント構造を対象に抽出した。抽出した構造の面積を算出し、面積のヒストグラムを作成した。 
その結果、約1400個のコンパートメント構造を抽出した。地域別にみると、四国地方を除くほとんどの地域で面積が2.25km2にピークをもち、9km2程度までに高い頻度を有する傾向を示すことが判明した。
3.サイト選定における水理学的コンパートメント構造の特徴と課題
これまでの検討の結果、日本列島に分布するコンパートメント構造は、四国地方を除いて概ね2.25~9㎞2(1.5km×1.5km~3km×3kmに相当)が卓越していることが判明した。この面積は、現在想定されている処分場の面積(2km×3km)と概ね同等である。なお、コンパートメント構造の抽出に用いた地質図Naviに記載された断層以外にも、瑞浪超深地層研究所の事例のように記載のない断層がHGCSを形成する例は存在することから、実際のコンパートメント構造の数は、今回抽出したものよりも多くなると考えられる。
仮にHGCSの中に処分場が選定された場合は、既述のように、坑道掘削中には外側への水位低下の影響は少なく、外側からの地下水の流入量は小さくなる。加えて、排水後(埋め戻し後)はHGCS内部での動水勾配は小さいことから、地下水流動にとっては好ましい環境と考えられる。一方で、水位回復が著しく遅く、地表水の流入等により酸化性の環境が長く続く場合は、地球化学的な観点からは好ましい環境とはならない。これらについては、HGCSを形成する断層の水理学的な特性(断層コア部の粘土物質の厚さや透水性)や地表水の流入の経路などが影響すると考えられることから、HGCSが推定される場合は、これらについて個別に調査することが必要である。加えて、HGCSを考慮したモデルに基づいて、坑道掘削中(排水中)や排水後(埋戻し後)の地下水流動や物質の移行挙動について予め予測しておくことも必要である。