日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT53] 地震観測・処理システム

2015年5月24日(日) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*中村 洋光(防災科学技術研究所)

18:15 〜 19:30

[STT53-P02] 地下への空気圧入に伴う地震波伝達関数の時間変化

本城 泰樹1、*鶴我 佳代子1笠原 順三2山岡 耕春3生田 領野2伊藤 潔4 (1.東京海洋大学、2.静岡大学理学部、3.名古屋大学環境学研究科附属地震火山研究センター、4.京都大学防災研究所)

キーワード:モニタリング, アクロス

IPCC報告書(2013)の政策決定者向け要約(SPM)では、気候システムの温暖化が進み、温室効果ガス濃度は上昇しており、対策として二酸化炭素(CO2)地中貯留技術(CCS)が寄与するとされた。しかしCCSにはCO2の漏洩リスクもあり貯留層の長期的かつ連続的なモニタリングが必要となる。
そこで本研究では、地震波を用いた地下空気貯留層のモニタリングを目標とし、地下への空気圧入に伴う地震波伝達関数の時間変化検出を試みた。CCSに関連した研究として2003年に新潟県長岡市でCO2圧入と地下のモニタリングが行われた。しかし、その際のモニタリングは約月1回ごとの断続的なものであった。本研究ではより連続的なモニタリングを行うため精密制御定常信号システム(ACROSS)を用いて、空気圧入による地震波への影響を探った。ACROSSは名古屋大学および東濃地科学センターにおいて熊澤ほか(2000)によって開発された。ACROSSでは人工震源を用いて位相と周波数を精密に制御し同じ性質を持たせた弾性波や電磁波を地下に連続照射し、震源特性と観測データの特性から伝達関数を求め、地下の構造や状態を監視観測する。このシステムを用いた試験観測として2011年2月から1か月に渡り兵庫県淡路島の野島断層周辺で、地下への空気圧入と約30地点での人工地震波の観測が行われた(Kasahara et al., 2011)。
解析は周波数領域で行った。人工震源の振動特性は、近傍に設置された地震計データを用いて震源の運動を剛体運動としてモデル化して、震源力[N]を求めた。約30地点の観測速度データを変位データ[m]に変換し、震源の振動特性とのデコンボリューションから伝達関数[m/N]を求めた。空気圧入前の記録から得られる伝達関数を参照データとし、圧入開始と終了を含む約14日間の観測記録から伝達関数の時間変化を求めた。伝達関数が表す波形記録の初動から任意の走時に注目し、isochronal scattering shellモデルを用いることで地下の異なる空間範囲(球殻上)から散乱されて観測点に届く波群の周波数と振幅の変化を追跡した。
解析の結果、空気注入井の東側の観測点群から得られる伝達関数において、圧入の約1日後に振幅が300%を超える顕著な増幅を示した。また、注目する走時によって変化を示す周波数が変わることが分かった。これらは注入井の東側に大戸山(注入井からの比高約160m)があることから、圧入後の空気が地層斜面の山側へ主に移動し、その過程で地下の各所に不均質(例えば空隙)をもたらしたことで反射強度の変化が起きた結果を捉えたものではないかと考えられる。