11:00 〜 11:15
[AHW24-06] 大阪平野とその周辺に分布する塩水とその起源
キーワード:高深度地下水, 有馬型塩水, 活断層, 水素・酸素安定同位体比
大阪平野の周辺の山間には多くの含鉄炭酸食塩泉が湧出していることが知られていた。中でも,有馬温泉は,有馬高槻構造線の一部を流路として六甲山地で高温の含鉄食塩泉が大量の二酸化炭素とマントル起源の3He/4He比を持つガスを伴って湧出していることが知られている(たとえば,Nagao et al., 1981)。また,大阪南部の金剛?葛城山地に位置する石仏では,低温ながら,有馬温泉に匹敵する二酸化炭素・3He/4He比を持つ高濃度塩水が知られている(たとえば,Matsumoto et al., 2003)。さらに,大阪平野の第四紀堆積層(大阪層群)と基盤岩の境界付近には,高濃度塩水がしばしば発見されてきた。大阪平野地下深部に存在する塩水の起源は現在も不明であるが,大阪湾沿岸部では3He/4He比の高さから,有馬型塩水との類似性が指摘されている(Morikawa et al., 2008)。本研究では,大阪府域の地下水中で,塩濃度の高いもの(おおむねCl- > 500 mg/L, HCO3- > 400 mg/L)を選び,井戸深度を取水深度と仮定して3次元分布図を作成した。また,特に平野堆積物最下部と基盤岩に出現する取水深度が500mより深い塩水の酸素・水素安定同位体比と塩分などとの関係から塩水の起源を検討した。
大阪層群は構造盆地であり,周囲を取り囲む低山地とは断層関係にある。塩化物イオン濃度の高い地下水は2つの地域に集中して見られる。一つはこの盆地と山地との境界付近である。平野北部の境界である有馬高槻構造線周辺,東部の生駒山地と南部の葛城山脈の生駒断層系に沿って見られるものが多い。塩化物イオンの最高値は15,000mg/L程度である。こちらのグループには,しばしば遊離二酸化炭素や高濃度の炭酸水素イオン(?3,500 mg/L程度まで)を含むことがある。また,塩化物イオンは低濃度であっても,遊離二酸化炭素や炭酸水素イオンに富む地下水は平野から離れた山間部でもしばしば見られる。もう一つは,平野中央部の堆積岩最下部から基盤岩中で1,000m以上掘削された井戸に多く見られる。こちらの地下水は塩化ナトリウムに富む水質であることが多く,塩化物イオンの最高値は13,000 mg/L程度である。炭酸水素イオン濃度は高くても300 mg/L程度までである。こちらの地下水の採取地点は,前述のもののように断層との関連性は見られない。
従来から,石仏の塩水は,酸素同位体シフトが特徴である「有馬型塩水」に分類されてきた。これは,水素同位体比は比較的地域の天水の値に近く,酸素同位体比だけが高くなるものであり,高温で岩石と水とが反応した結果であると考えられてきた。石仏を除けば,上述した塩水の酸素と水素の同位体比の関係は,地域の天水と海水の混合線上にプロットされる。天水と海水の混合で説明される塩水は,同位体比と塩化物イオン濃度の関係も同様に混合線で示される。大阪平野の100mより浅い深度から取水される塩水は酸素・水素安定同位体比と塩化物イオン濃度との関係は海水との混合で表される。一方,取水深度が100?500mの塩水は,酸素同位体比?塩化物イオン濃度の関係は海水?天水の混合線上にプロットされるが,水素同位体比は海水と同じ塩化物イオン濃度を持つと仮定した塩水では-40‰と天水の値に近くなる。さらに,500mより深い塩水では酸素同位体比?塩化物イオン濃度の関係も海水?天水混合線からはずれ,酸素・水素とも海水?天水の混合線よりも小さい傾きを示す。海水と同じ塩化物イオン濃度を仮定した場合には,酸素同位体は-2‰,水素同位体比は-40‰である。
酸素・水素安定同位体比の特徴は大阪平野最下部の塩水が典型的な有馬型塩水ではないことを示している。大阪平野周辺の活断層は表層から深部帯水層への涵養経路となっていることから,海進時に流入した海水を含む地下水が地下深部へ移動しつつ有馬型塩水へと進化している過程を観察しているのかもしれない。
大阪層群は構造盆地であり,周囲を取り囲む低山地とは断層関係にある。塩化物イオン濃度の高い地下水は2つの地域に集中して見られる。一つはこの盆地と山地との境界付近である。平野北部の境界である有馬高槻構造線周辺,東部の生駒山地と南部の葛城山脈の生駒断層系に沿って見られるものが多い。塩化物イオンの最高値は15,000mg/L程度である。こちらのグループには,しばしば遊離二酸化炭素や高濃度の炭酸水素イオン(?3,500 mg/L程度まで)を含むことがある。また,塩化物イオンは低濃度であっても,遊離二酸化炭素や炭酸水素イオンに富む地下水は平野から離れた山間部でもしばしば見られる。もう一つは,平野中央部の堆積岩最下部から基盤岩中で1,000m以上掘削された井戸に多く見られる。こちらの地下水は塩化ナトリウムに富む水質であることが多く,塩化物イオンの最高値は13,000 mg/L程度である。炭酸水素イオン濃度は高くても300 mg/L程度までである。こちらの地下水の採取地点は,前述のもののように断層との関連性は見られない。
従来から,石仏の塩水は,酸素同位体シフトが特徴である「有馬型塩水」に分類されてきた。これは,水素同位体比は比較的地域の天水の値に近く,酸素同位体比だけが高くなるものであり,高温で岩石と水とが反応した結果であると考えられてきた。石仏を除けば,上述した塩水の酸素と水素の同位体比の関係は,地域の天水と海水の混合線上にプロットされる。天水と海水の混合で説明される塩水は,同位体比と塩化物イオン濃度の関係も同様に混合線で示される。大阪平野の100mより浅い深度から取水される塩水は酸素・水素安定同位体比と塩化物イオン濃度との関係は海水との混合で表される。一方,取水深度が100?500mの塩水は,酸素同位体比?塩化物イオン濃度の関係は海水?天水の混合線上にプロットされるが,水素同位体比は海水と同じ塩化物イオン濃度を持つと仮定した塩水では-40‰と天水の値に近くなる。さらに,500mより深い塩水では酸素同位体比?塩化物イオン濃度の関係も海水?天水混合線からはずれ,酸素・水素とも海水?天水の混合線よりも小さい傾きを示す。海水と同じ塩化物イオン濃度を仮定した場合には,酸素同位体は-2‰,水素同位体比は-40‰である。
酸素・水素安定同位体比の特徴は大阪平野最下部の塩水が典型的な有馬型塩水ではないことを示している。大阪平野周辺の活断層は表層から深部帯水層への涵養経路となっていることから,海進時に流入した海水を含む地下水が地下深部へ移動しつつ有馬型塩水へと進化している過程を観察しているのかもしれない。