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[HCG35-14] 第四紀後期における利根川支流域での河成段丘形成と地殻変動量評価
キーワード:河成段丘, TT法, 地殻変動, テフラ, 河床縦断面形, 神流川
背景
地殻変動量を評価するには,短いタイムスケールから順に地震学的,測地学的,地形学的,地質学的アプローチがある.測地学的方法が適用できない近代以前の地殻変動については,地形学的・地質学的証拠に基づく推定が有効である.これまでは主に海成段丘による評価法が用いられてきた (小池・町田, 2001).海成段丘の旧汀線の分布高度と形成年代及び当時のユースタチックな海水準をもとに,旧汀線形成時以降の地殻変動が推定されてきた.しかし,海成段丘が分布しない内陸部では別の方法を使う必要がある.
内陸部においては河成段丘の高度分布に注目する方法が有効である.同等の気候や海水準のもとでは類似の河床縦断形が形成されることを前提にすると,ある氷期に形成された段丘面と次の氷期に形成された面との比高によって,10万年スケールの地殻変動量を推定可能となり,この方法はTT(Terrace to Terrace)法と呼ばれている(吉山・柳田, 1992),(安江・田力ほか, 2011).TT法の根拠は,内陸部にも海水準変動の影響が及ぶことを前提に考えられたDury, (1959)や貝塚, (1977)の気候段丘モデルである.しかしTT法は一般に内陸部にさかのぼるほど海水準変動の影響が及びにくくなっていき,地殻変動量評価の精度が低下すると考えられる.また氷期-間氷期スケールの時間変化においては,河川の流路変遷を考慮に入れる必要がある.このような理由から,TT法の適用精度や限界を知るための基礎的な研究が必要である.
研究目的
内陸部の地殻変動量をTT値でマッピングした研究があり(田力, 2000),本研究において重要な要素である国内の多くの河床縦断面形を近似関数形として網羅的に分類した研究もある(本多・須貝, 2011).これらの成果と本研究を組み合わせ,まだ十分に解明されていない内陸部の河床縦断面形変化の傾向を類推することが可能となる.内陸部でTT法を適用できる範囲を拡大することが本研究の目的であり,そのことにより多くの地域での地殻変動量の評価予測が可能になる.
研究方法
本研究では河成段丘地形が多く残されている神流川流域で調査を行った.まず空中写真判読により地形分類を行い,簡易レーザー測量器を用いた段丘面の比高計測を行った.また段丘を覆うテフラなどの風成層の主要元素組成をSEM EDSを用いて分析した.そして等高線間隔10mの1:25000地形図や等高線間隔2mの1:2500都市計画図により河成段丘の比高を計測し,神流川河床と段丘面の河床縦断面形を作成した.段丘比高の評価については,支流性堆積物や活断層の影響も無視できないため,これらの要素の影響をできる限り取り除き,地殻変動量を正確に評価できるようにした.
結果と考察
調査地域において,下流域の中位段丘からはAT火山灰が認められ29kaの年代が出ている.その下位層準で礫の風化が進んでいることや段丘の開析度から総合的に判断すると,中位段丘面は,より広域に存在しほとんど開析されていない低位段丘面より古く,最終間氷期以前に形成された面であると推定される.中位面がMIS6の形成であるとすればTT値は19-29mでMIS6-2での平均地殻変動量は0.14 - 0.22 mm/yr程度であると推定できる.上流では山中地溝帯で段丘の発達が良く,高位面が3段に細分され最高位段丘の形成時期はMIS 12ころまで遡る可能性がある.滑走斜面には侵食を免れた古い段丘面が残存している.高位段丘露頭では連続サンプリングを行い,最終氷期より古いと推測される段丘の年代を火山灰分析により決定することを試みた.
今後の課題
本研究はTT法の適用精度や限界を知るための基礎的研究という位置づけである.しかしながら段丘を覆う風成層の主要元素分析については十分に成果が出せたとは言えず,年代決定については地形的観測からの推測段階であるため,今後の課題としては,年代決定論拠の確定を進めるべきであると考えている.
引用文献
小池一之・町田洋編, 2001, 日本の海成段丘アトラス, 東京大学出版会.
吉山昭・柳田誠, 1992, 地学雑誌 104, p809-826.
安江健一・田力正好ほか, 2011, 原子力バックエンド研究 18(2), p51-61.
Dury, G. H., 1959, The Face of Earth, Penguin Books, Hamondsworth, 251p.
貝塚, 1977, 日本の地形 特質と由来, 岩波新書, p163-169; 222-230.
田力正好, 2000, 月刊地球号外 31, p173-181.
本多啓太・須貝俊彦, 2011, 地形 32(3), 293-315.
地殻変動量を評価するには,短いタイムスケールから順に地震学的,測地学的,地形学的,地質学的アプローチがある.測地学的方法が適用できない近代以前の地殻変動については,地形学的・地質学的証拠に基づく推定が有効である.これまでは主に海成段丘による評価法が用いられてきた (小池・町田, 2001).海成段丘の旧汀線の分布高度と形成年代及び当時のユースタチックな海水準をもとに,旧汀線形成時以降の地殻変動が推定されてきた.しかし,海成段丘が分布しない内陸部では別の方法を使う必要がある.
内陸部においては河成段丘の高度分布に注目する方法が有効である.同等の気候や海水準のもとでは類似の河床縦断形が形成されることを前提にすると,ある氷期に形成された段丘面と次の氷期に形成された面との比高によって,10万年スケールの地殻変動量を推定可能となり,この方法はTT(Terrace to Terrace)法と呼ばれている(吉山・柳田, 1992),(安江・田力ほか, 2011).TT法の根拠は,内陸部にも海水準変動の影響が及ぶことを前提に考えられたDury, (1959)や貝塚, (1977)の気候段丘モデルである.しかしTT法は一般に内陸部にさかのぼるほど海水準変動の影響が及びにくくなっていき,地殻変動量評価の精度が低下すると考えられる.また氷期-間氷期スケールの時間変化においては,河川の流路変遷を考慮に入れる必要がある.このような理由から,TT法の適用精度や限界を知るための基礎的な研究が必要である.
研究目的
内陸部の地殻変動量をTT値でマッピングした研究があり(田力, 2000),本研究において重要な要素である国内の多くの河床縦断面形を近似関数形として網羅的に分類した研究もある(本多・須貝, 2011).これらの成果と本研究を組み合わせ,まだ十分に解明されていない内陸部の河床縦断面形変化の傾向を類推することが可能となる.内陸部でTT法を適用できる範囲を拡大することが本研究の目的であり,そのことにより多くの地域での地殻変動量の評価予測が可能になる.
研究方法
本研究では河成段丘地形が多く残されている神流川流域で調査を行った.まず空中写真判読により地形分類を行い,簡易レーザー測量器を用いた段丘面の比高計測を行った.また段丘を覆うテフラなどの風成層の主要元素組成をSEM EDSを用いて分析した.そして等高線間隔10mの1:25000地形図や等高線間隔2mの1:2500都市計画図により河成段丘の比高を計測し,神流川河床と段丘面の河床縦断面形を作成した.段丘比高の評価については,支流性堆積物や活断層の影響も無視できないため,これらの要素の影響をできる限り取り除き,地殻変動量を正確に評価できるようにした.
結果と考察
調査地域において,下流域の中位段丘からはAT火山灰が認められ29kaの年代が出ている.その下位層準で礫の風化が進んでいることや段丘の開析度から総合的に判断すると,中位段丘面は,より広域に存在しほとんど開析されていない低位段丘面より古く,最終間氷期以前に形成された面であると推定される.中位面がMIS6の形成であるとすればTT値は19-29mでMIS6-2での平均地殻変動量は0.14 - 0.22 mm/yr程度であると推定できる.上流では山中地溝帯で段丘の発達が良く,高位面が3段に細分され最高位段丘の形成時期はMIS 12ころまで遡る可能性がある.滑走斜面には侵食を免れた古い段丘面が残存している.高位段丘露頭では連続サンプリングを行い,最終氷期より古いと推測される段丘の年代を火山灰分析により決定することを試みた.
今後の課題
本研究はTT法の適用精度や限界を知るための基礎的研究という位置づけである.しかしながら段丘を覆う風成層の主要元素分析については十分に成果が出せたとは言えず,年代決定については地形的観測からの推測段階であるため,今後の課題としては,年代決定論拠の確定を進めるべきであると考えている.
引用文献
小池一之・町田洋編, 2001, 日本の海成段丘アトラス, 東京大学出版会.
吉山昭・柳田誠, 1992, 地学雑誌 104, p809-826.
安江健一・田力正好ほか, 2011, 原子力バックエンド研究 18(2), p51-61.
Dury, G. H., 1959, The Face of Earth, Penguin Books, Hamondsworth, 251p.
貝塚, 1977, 日本の地形 特質と由来, 岩波新書, p163-169; 222-230.
田力正好, 2000, 月刊地球号外 31, p173-181.
本多啓太・須貝俊彦, 2011, 地形 32(3), 293-315.