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[SCG65-08] 活断層近傍における強震動予測手法の工学的適用に関する諸課題について
キーワード:活断層近傍, 強震動予測レシピ, 指向性パルス, フリングステップ, 設計用地震動, 検証用地震動
1.はじめに
兵庫県南部地震から20年を経て、レシピなど強震動予測手法が体系化されつつあり、構造物への設計用入力地震動など工学的にも活用されている。一方、超巨大地震や活断層など震源近傍の強震動の予測に適用する際、注意すべきいくつかの課題も明らかになっている。ここでは、活断層近傍における強震動予測手法の工学的適用に関する3つの課題を提示したい。
2.活断層近傍における強震動予測手法の工学的適用に関する諸課題
1)強震動予測レシピで誰がやっても同じ答が得られるか?
答えは自明であり、noであると思うが、社会的に誤解を招いていると思う。同じ食材やレシピを用いても、一流シェフと初心者では出てくる料理が全く異なるのと同じである。強震動予測レシピは強震動生成域に短周期の励起や指向性パルスなど発生源を集約することで、誰でもある程度の強震動計算が可能となる非常に有用な経験式である。特に中規模地震である程度距離が離れたサイトでは、単純化した震源モデル(すべり関数や破壊過程など)の限界を気にしなくても、観測記録の再現などで多大な実績がある。一方、活断層などの震源の近傍では、単純化した震源モデルによる影響が、指向性パルスなどの強震動にそのまま反映されるので要注意である。強震動研究者には自明であると思われるが、あまり注意を払われていると思われない結果が散見される場合がある。初心者がいきなり強震動予測レシピに飛びつく前に、前提となる多くの震源パラメータや計算手法の選択などで計算結果に大きな影響があることを理解することが重要であり、段階を踏みながら学ぶ必要がある。必要とされているのはレシピの限界を知り、使いこなせる一流シェフの育成やその教材やノウハウだと思う。
2)地表地震断層近傍の強震動予測
強震動予測レシピでは深さ数kmの浅さ限界を設定し、浅い断層は地表地震断層の影響を無視している。しなしながら、地表地震断層近傍のフリングステップ(断層すべりに起因するステップ関数状の大きな永久変位を伴う強震動)や傾斜などの地盤変状が工学的に大きな課題となっている。近年の地表地震断層近傍の建物被害調査(例えば、久田、2012)などでは、地震断層の直上を除いて一般に被害は軽微であることが多く、直上の被害も断層すべりや傾斜などに地盤変状に起因する例が圧倒的であり、倒壊にまで至るケースも殆ど存在しない。既に理論的手法や数値解析手法でシミュレーションも可能であり(例えば、Hisada and Bielak, 2003)、断層のすべり量や傾斜角などが事前にある程度分かれば工学的に十分の対応可能だと思う。多数の活断層が都市内外の存在する我が国では活断層とともに生きる知恵が求められており、地表地震断層による強震動予測レシピが必要である。
3)強震動予測手法の工学的適用:設計用地震動と検証用地震動
阪神・淡路大震災や東日本大震災を踏まえ、千年から数万年に一度など、従来の設計用地震動の再現期間を凌駕する最大級地震・最悪想定の強震動等が公開されており、それによる万が一の過酷事象への対策が求められている。発生の可能性が極めて低いが、甚大な影響のある地震動(活断層による震源近傍の強震動や、超巨大地震による長周期地震動など)に対して、現在の耐震規定でしっかりと設計施工された低層建物であれば、過大入力に対しても高い安全性があることは経験的に確認されている。一方、免震や超高層建築、原子力発電所など大震災の経験に乏しいが、高い安全性が求められている施設には、過酷事象に備えた検討が特に必要である。建物の構造躯体や非構造・設備施設などの耐震設計用の入力地震動は、数十年以上の耐用年数内で安定している必要があり、新しい知見などで大きく変わりうる強震動予測手法の結果は、そのままでは設計用地震動として使用が困難である。よって、最大級地震による最悪条件による過大な予測地震動は、設計用地震動とは区別し、既存の手法で耐震設計した建物の安全性や対策を検討するためのリスクマネジメントのための検証用地震動として位置付けられると思う。万が一の過酷事象への対策には工学的判断が必須であり、場合によりフェールセーフなどのハード対策、あるいはモニタリングとクライシスマネジメント、教育や防災訓練などによるソフト対策などが必要になる。
3.おわりに
強震動研究とその応用である耐震対策の研究に拘わるものとして、活断層近傍における強震動予測手法の工学的適用に関する諸課題を、話題提供として記してみた。なお、本報告は久田(第42回地盤震動シンポジウム、日本建築学会、2014)などをもとにしている。
謝辞
本報告の内容の一部は、文科省・科研費・基盤研究(B)の研究助成と、工学院大学・都市減災研究センターによる助成のもとで行われました。
兵庫県南部地震から20年を経て、レシピなど強震動予測手法が体系化されつつあり、構造物への設計用入力地震動など工学的にも活用されている。一方、超巨大地震や活断層など震源近傍の強震動の予測に適用する際、注意すべきいくつかの課題も明らかになっている。ここでは、活断層近傍における強震動予測手法の工学的適用に関する3つの課題を提示したい。
2.活断層近傍における強震動予測手法の工学的適用に関する諸課題
1)強震動予測レシピで誰がやっても同じ答が得られるか?
答えは自明であり、noであると思うが、社会的に誤解を招いていると思う。同じ食材やレシピを用いても、一流シェフと初心者では出てくる料理が全く異なるのと同じである。強震動予測レシピは強震動生成域に短周期の励起や指向性パルスなど発生源を集約することで、誰でもある程度の強震動計算が可能となる非常に有用な経験式である。特に中規模地震である程度距離が離れたサイトでは、単純化した震源モデル(すべり関数や破壊過程など)の限界を気にしなくても、観測記録の再現などで多大な実績がある。一方、活断層などの震源の近傍では、単純化した震源モデルによる影響が、指向性パルスなどの強震動にそのまま反映されるので要注意である。強震動研究者には自明であると思われるが、あまり注意を払われていると思われない結果が散見される場合がある。初心者がいきなり強震動予測レシピに飛びつく前に、前提となる多くの震源パラメータや計算手法の選択などで計算結果に大きな影響があることを理解することが重要であり、段階を踏みながら学ぶ必要がある。必要とされているのはレシピの限界を知り、使いこなせる一流シェフの育成やその教材やノウハウだと思う。
2)地表地震断層近傍の強震動予測
強震動予測レシピでは深さ数kmの浅さ限界を設定し、浅い断層は地表地震断層の影響を無視している。しなしながら、地表地震断層近傍のフリングステップ(断層すべりに起因するステップ関数状の大きな永久変位を伴う強震動)や傾斜などの地盤変状が工学的に大きな課題となっている。近年の地表地震断層近傍の建物被害調査(例えば、久田、2012)などでは、地震断層の直上を除いて一般に被害は軽微であることが多く、直上の被害も断層すべりや傾斜などに地盤変状に起因する例が圧倒的であり、倒壊にまで至るケースも殆ど存在しない。既に理論的手法や数値解析手法でシミュレーションも可能であり(例えば、Hisada and Bielak, 2003)、断層のすべり量や傾斜角などが事前にある程度分かれば工学的に十分の対応可能だと思う。多数の活断層が都市内外の存在する我が国では活断層とともに生きる知恵が求められており、地表地震断層による強震動予測レシピが必要である。
3)強震動予測手法の工学的適用:設計用地震動と検証用地震動
阪神・淡路大震災や東日本大震災を踏まえ、千年から数万年に一度など、従来の設計用地震動の再現期間を凌駕する最大級地震・最悪想定の強震動等が公開されており、それによる万が一の過酷事象への対策が求められている。発生の可能性が極めて低いが、甚大な影響のある地震動(活断層による震源近傍の強震動や、超巨大地震による長周期地震動など)に対して、現在の耐震規定でしっかりと設計施工された低層建物であれば、過大入力に対しても高い安全性があることは経験的に確認されている。一方、免震や超高層建築、原子力発電所など大震災の経験に乏しいが、高い安全性が求められている施設には、過酷事象に備えた検討が特に必要である。建物の構造躯体や非構造・設備施設などの耐震設計用の入力地震動は、数十年以上の耐用年数内で安定している必要があり、新しい知見などで大きく変わりうる強震動予測手法の結果は、そのままでは設計用地震動として使用が困難である。よって、最大級地震による最悪条件による過大な予測地震動は、設計用地震動とは区別し、既存の手法で耐震設計した建物の安全性や対策を検討するためのリスクマネジメントのための検証用地震動として位置付けられると思う。万が一の過酷事象への対策には工学的判断が必須であり、場合によりフェールセーフなどのハード対策、あるいはモニタリングとクライシスマネジメント、教育や防災訓練などによるソフト対策などが必要になる。
3.おわりに
強震動研究とその応用である耐震対策の研究に拘わるものとして、活断層近傍における強震動予測手法の工学的適用に関する諸課題を、話題提供として記してみた。なお、本報告は久田(第42回地盤震動シンポジウム、日本建築学会、2014)などをもとにしている。
謝辞
本報告の内容の一部は、文科省・科研費・基盤研究(B)の研究助成と、工学院大学・都市減災研究センターによる助成のもとで行われました。