日本地球惑星科学連合2015年大会

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[U-06] 宇宙・太陽から地球表層までのシームレスな科学の新展開

2015年5月24日(日) 16:15 〜 18:00 105 (1F)

コンビーナ:*松見 豊(名古屋大学太陽地球環境研究所)、草野 完也(名古屋大学太陽地球環境研究所)、石坂 丞二(名古屋大学地球水循環研究センター)、坪木 和久(名古屋大学・地球水循環研究センター)、榎並 正樹(名古屋大学 年代測定総合研究センター)、座長:町田 忍(名古屋大学太陽地球環境研究所)

17:35 〜 17:55

[U06-21] 太陽と地球環境について総合的研究を行う研究所

*常田 佐久1 (1.宇宙科学研究所)

キーワード:太陽地球環境

私たちの住む地球は、太陽なくしては生命をはぐくむ現在の姿にはなり得ない。一方、太陽フレアが起きれば、GSPの異常、送電システムの異常電流による停止、気象衛星や通信衛星の誤動作、そして宇宙飛行士の被ばくなど、高度に発達した文明は思わぬ被害を受ける。柴田らは、ケプラー衛星のデーターから地球に甚大な被害を起こす「スーパーフレア」が発生しうることを示し、その確率を求めた。太陽フレアの発生を事前に察知する「宇宙天気予報」に日本を含む各国が力を入れている。日本は、過去30年にわたり「ひのとり」、「ようこう」、「ひので」と3機のすぐれた観測衛星を打ち上げており、草野らの研究に代表されるように、基礎研究の面から予報アルゴリズムの確立に貢献してきた。

一方、より長期的な時間スケールで見ると、黒点の増減で代表される太陽活動が地球の気候に顕著な影響を与えていることが分かってきた。1645 年から1715 年の70年間は黒点がほとんど見られなかったマウンダー極小期、1460 年から1550年の90年間同様の不活動期(シュポラー極小期)は、地球が寒冷化していた記録がある。さらに木の年輪や南極の氷柱に残されたアイソトープの量から、望遠鏡の発明以前の太陽黒点数が推測されており、マウンダー極小期は過去一万年に何度も発生し、これらの時期は海水温が低下していたことがはっきりしている。今日では、黒点数に代表される太陽活動の変動は、気候変動の重要な駆動源の一つであることが確立している。

一定不変であるはずの太陽定数(宇宙空間での1平米あたりの太陽から来る全エネルギー)が0.15%ほど変動しているという驚愕する事実は、1970年以降宇宙からの太陽の観測が本格化して初めて明らかとなった。常識に反するようだが、太陽は、黒点の数の多い極大期では少し明るく、黒点の少ない極小期には少し暗い。この太陽放射量の変動は、暗い黒点とそれに寄り添うような白斑と呼ばれる微細磁束管の集合よりなる明るい領域の微妙なバランスによっており、全体として白斑の影響が勝つため、黒点が多い時期は太陽が少し明るくなる。太陽定数の変動と地球の平均気温には綺麗な相関が見えており、太陽層放射量の0.1%の変動は、約0.12度の温度変化を引き起こす。マウンダー極小期の時期には、太陽はより暗かったのだろうか?それがありそうもないとすると、太陽活動と地球環境をつなぐ別のメカニズムが必要となる。

太陽の磁場は広く惑星間空間の広がり、銀河系空間からの宇宙線を遮る役割を果たしている。太陽活動が高いと地球に降り注ぐ宇宙線の量は減るし、太陽活動が下がれば宇宙線の量は増える。宇宙線の量が地球環境に影響を与えていると主張する研究者もいる。
過去50年間に加速された地球温暖化は、太陽の影響は二次的で温室効果ガスが主要な原因と言われている。おりしも日本の太陽観測衛星「ひので」の観測結果などから、両極域の磁場が同極性の状態であること、磁束量の低下の兆候が得られている。

これらのことから、太陽のダイナモから地球周辺と地球環境を研究する総合的研究所の必要性は明らかであろう。このためには、近接分野を糾合した学際的研究所が必要であり、名古屋大学STE研、地球水循環研究センター、年代測定総合研究センターが統合して1つの研究所となり、今後ますます重要となる太陽-地球・惑星系科学のシステム的アプローチとミッションとすることは、国際的にもまことに時宜かなっており、関係者の英断に敬意を表したい。