日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS31] 地殻変動

2015年5月25日(月) 16:15 〜 18:00 304 (3F)

コンビーナ:*太田 雄策(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)、村瀬 雅之(日本大学文理学部地球システム科学科)、座長:水藤 尚(国土交通省国土地理院)、加藤 照之(東京大学地震研究所)

17:00 〜 17:15

[SSS31-11] GPS観測に基づく2011年4月11日 福島県浜通り地震(Mw6.6)の余効地殻変動

堀 草子1青木 陽介2、*加藤 照之2宮下 芳1 (1.茨城大学大学院理工学研究科、2.東京大学地震研究所)

キーワード:地殻変動, GPS, 余効変動, 正断層地震

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)は活発な余震活動を伴った。その一ヶ月後2011年4月11日にいわき市付近の深さ5kmで発生したMw6.6の正断層型地震(福島県浜通り地震)は東北地方太平洋沖地震の余震の一つと考えられる。
 福島県浜通り地震に伴う地殻変動はInSARを用いた先行研究により、詳細な断層モデルが得られている(Kobayashi et al.,2012: Fukushima et al.,2013)が、ALOS衛星が福島県浜通り地震直後に運用を停止したために、SARデータを用いて福島県浜通り地震の余効変動を計測することはできず、余効変動を観測しているのはGPS観測点のみである。そこで、本研究ではGPS観測値を用いて福島県浜通り地震の余効変動の検出とそのメカニズムを解明することを目的とした。
 本研究ではGPS観測値は国土地理院のF3と呼ばれる最終解を使用した。この観測された変位場は、福島県浜通り地震に伴う余効変動だけではなく、東北地方太平洋沖地震の余効変動やプレート運動などのブロック運動も重畳されているため、福島県浜通り地震の余効変動を直接は見ることが出来ない。東北地方太平洋沖地震に伴う余効変動は本研究で取り扱っている福島県浜通り地震による地殻変動の空間的な広がりよりもはるかに広範囲に広がっているため、地表で観測される変位場を適当な関数で近似したほうが良いと考え、その関数に対応するパラメータと福島県浜通り地震の余効変動に伴う断層すべり量を同時に推定する方法を試みた。
 本研究では福島県浜通り地震の後約半年間のデータを用いる。この期間の観測データには(1)プレート運動に起因する空間的に均一な運動、(2)東北地方太平洋沖地震の余効変動、(3)福島県浜通り地震の余効変動が含まれていると仮定する。よって観測値から福島県浜通り地震の余効変動とその他の変動を分離する必要がある。次に、福島県浜通り地震の余効変動のメカニズムをKobayashi et al.(2012)による断層面を長さ・幅ともに約2倍に拡大した面上のクリープによるものだと仮定して、余効すべりの分布を推定した。本研究では、これらの推定量をインバージョン解析の手法を用いて一度に推定した。
 まず東北地方太平洋沖地震にともなう余効変動を空間についての多項式で表して元のデータから差し引いたところ、福島県浜通り地震の震央域の観測点において顕著な残差が見られたことから福島県浜通り地震による余効変動が観測されていることが明瞭に見て取れた。
 東北地方太平洋沖地震の余効変動については、一次から四次までの四種類の多項式を用いて近似したが、これらのモデルにおいて、福島県浜通り地震の断層を含む面上のすべりは共通する四カ所に集中することが分かった。しかしながら、上記4種のモデルにおいて東北地方太平洋沖地震の余効変動として与えた多項式が異なることから、福島県浜通り地震の余効変動の観測値もまた異なる結果となっている。そこで、求められた余効変動と計算値をF検定にかけたところ、ひずみを三次関数まで定式化したモデルが最適であると求められた。また、仮定した断層面の大きさが余効すべりの広がりに及ぼす影響を調べるため、ひずみの三次関数のモデルにおいて断層面の幅と長さをKobayashi et al.(2012)の1.5倍、3倍と変えてみた。その結果、湯ノ岳断層の断層端のすべりが断層境界の場所に依存することが分かったが、一方、塩ノ平断層で見られている滑りは断層境界の位置には大きく依存しないことがわかった。湯ノ岳断層面上の推定が不安定であるのは観測点が少ないためデータから良く拘束できていなかったのではないかと推察される。一方、塩ノ平断層においては余効すべりは比較的よく求められているのではないかと推察される。いずれにせよ、余効すべりの領域はKobayashi et al. (2012)による地震時のすべり領域とは相補的な領域にあると推定された。この結果は先行研究なども示すように、地震時にすべった領域がその領域の外周に応力の増加をもたらし、それによって、地震時すべりが次第に周囲に伝播していった、と考えることで説明が可能である。
 このように、地震後約半年間の余効変動は余効すべりによって説明が可能であったが、地震後一年間のデータを用いて同様の解析を行ったところ、震源から遠地の観測点においては余効すべりによってよく説明できないことが分かった。そこで地表から25kmまでを弾性層、それ以深を粘弾性層と仮定して、地震時の断層すべりを与え、粘弾性緩和においてどのような応答があるか調べた。剛性率は30GPa、粘性率を1×1018Pa sという下部地殻にしては極めて低い弾性率を仮定すると、震央から遠い観測点の変位を定性的に説明できる。そのため、この地域の下部地殻の粘性率は極めて低いと考えられる。