日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT30] UAVが拓く新しい世界

2015年5月25日(月) 16:15 〜 18:00 101A (1F)

コンビーナ:*近藤 昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、井上 公(防災科学技術研究所)、長谷川 均(国士舘大学文学部地理学教室)、齋藤 修(茨城大学)、座長:近藤 昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)

17:15 〜 17:30

[HTT30-04] UAVを活用した奈良県深層崩壊箇所の土砂移動監視

*阪上 雅之1金井 啓通1清水 幹輝1堀 大一郎1 (1.国際航業株式会社)

キーワード:UAV, 監視, 計測, 深層崩壊, 土砂災害

1.はじめに
平成23年9月に発生した紀伊半島大水害では、奈良県南部地域の広い範囲で「深層崩壊」と呼ばれる大規模な斜面崩壊が多発し、多くの人的被害や家屋被害等の甚大な被害となった。平成23年の大規模崩壊箇所は、その後の台風等の豪雨により二次的な土砂移動が発生しており、継続的な監視が重要である。だが、対象斜面は県の広範囲に及び、また周囲は急峻な地形を呈する山間部のため、人為的な現地踏査には時間を要する。また、航空レーザ測量等のリモートセンシング技術を主体とした監視は、広範囲の計測に適している一方、コストが高く、頻繁に計測することは困難である。さらに、航空機や衛星等は撮影高度が高いため、天候等に左右され、必要な時に必要な高分解能な情報を得られない可能性がある。そのため、既存のリモートセンシング技術だけに頼らない、比較的安価で機動性の高い新たな監視方法を検討する必要がある。以上の背景から、本検討ではUAVを用いた土砂移動監視の可能性について検討を行った。

2.調査対象箇所
紀伊半島大水害による大規模崩壊60箇所の中から11箇所選び、崩壊地周辺の土砂移動状況についてUAVを用いて、調査を実施した。

3.調査手法
調査機材には、エンルート社製ZionQC730、撮影カメラにはSonyα6000を使用した。機体のジンバルに取り付けたカメラから自動で2秒間隔に1枚、垂直方向に写真を撮影し、撮影した写真を基にSfM(Structure from Motion)による対象斜面の地形モデル及び、オルソ写真を作成した。また、一部斜面では斜め方向で動画撮影を行い、経年的な地形変化を検討する基礎資料とした。UAVの離着陸地点については、緊急時の迅速な調査を想定し、作業を短時間で終えられるよう、車でのアクセスの良さや、なるべく1箇所から複数の斜面を撮影できる等を考慮し、11斜面に対して5箇所の離着陸地点を机上及び、現地で選定した。飛行計画は、国土地理院10mメッシュ標高データを用いて、周囲の樹木に当たらないよう、谷部をなぞるような飛行計画を組んだ。平成23年度以降の土砂の移動状況については、平成23年度以降に撮影された空中写真や航空レーザ測量成果と、本検討で撮影したUAV撮影成果を比較し、土砂移動の有無を検討した。

4.調査結果
現地調査は2014年11月11日~12日の2日間に実施した。現地の地形及び、設定した飛行計画や搭載するバッテリーの特性を加味し、速度20~45km/hで飛行を実施し、最も長い飛行として約14km(片道7km)の自動航行を実施した。これは、急峻な地形における回転翼UAVを用いた自動航行の飛行実績としては、世界的にも例を見ないものと考える。
UAVにより今回撮影された空中写真と、過去撮影された航空機やヘリコプターによる空中写真を判読し、地形や植生の変化箇所を抽出した。また、崩壊発生直後に取得された航空レーザ測量データがある斜面では差分解析による移動土砂量の算出を行い、下記の変化が識別できた。
・崖の侵食、小河川の流路変化やガリーの発達等の地形変化
・倒木の流出、樹木の消失(伐採痕の識別)等の植生変化
・1年または2年間での、崩壊地直下の崖錐部や河床堆積物における土砂侵食量

5.まとめと今後の課題
調査結果から、山間部でのUAVを利用した土砂移動監視を実施する利点として、①短時間での現地作業が可能(平均2時間/箇所)、②従来の航空機を使用した調査より低コスト、③低高度による高解像度画像の取得、④短時間での画像取得・処理、⑤高頻度での画像取得可能、⑥繰り返し観測可能等が明らかになった。
課題としては、①撮影のタイミング(天候、光)、②山間部でのGPSの取得、③飛行時間(距離)の制約、④広域を対象とした場合、離着陸地点間の移動に時間を要する、⑤現場での安全管理、⑥自動航行中のトラブルやその対処、⑦土砂量算出のための、三次元計測時の地上基準点の設定や地上基準点を含む飛行計画の設定等が挙げられた。
今後の継続的な土砂移動の監視にあたっては、一度に広域を撮影可能な衛星(光学、SAR)を使った従来の調査手法と、より低高度から高解像度の画像が取得可能なUAV調査を組み合わせ、それぞれが取得できる情報の範囲や解像度を補完するような調査方法が適切と考える。

6.謝辞
本検討にあたっては、国土交通省近畿地方整備局様や奈良県様が撮影された過去の空中写真を比較検討資料として御提供いただいた。この場を借りて深く感謝する。