日本地球惑星科学連合2015年大会

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[U-07] 連合は環境・災害にどう向き合っていくのか?

2015年5月28日(木) 16:15 〜 18:00 103 (1F)

コンビーナ:*田中 賢治(京都大学防災研究所)、作野 裕司(広島大学大学院工学研究院)、後藤 真太郎(立正大学地球環境科学部環境システム学科)、座長:田中 賢治(京都大学防災研究所)、作野 裕司(広島大学大学院工学研究院)、後藤 真太郎(立正大学地球環境科学部環境システム学科)

16:30 〜 16:45

[U07-18] 福島第一原子力発電所の地下水汚染問題と今後の課題

*丸井 敦尚1 (1.産業技術総合研究所)

キーワード:福島第一原子力発電所, 東日本大震災, 地下水, 汚染, 放射能汚染, 対策

福島第一原子力発電所における地下水問題とその対策は、2011年3月11日に事故を起こして以来、さまざまな形で報じられてきた。しかしながら、現地の自然環境や地下水対策の目的や状況を的確に伝えるものは少ないと感じている(丸井、2014)。このため、数多くの誤解が生まれ、たくさんの提言や批判がメディアを賑わせている。本報では、現地の地質や地下水の状態を今一度確認した上で、廃炉に向けた国や東京電力の長期計画をふまえつつ、今何が問題で、どんな対策が講じられているかを報告し、その上で今後の課題について議論してゆきたい。
現在、汚染水が存在する場所とそのボリュームは以下のとおりである。トレンチとは建屋から海に向かうトンネル状のものであり、配管や配線が通っている。事故直後に汚染水が漏れ出して周辺の土壌や海洋を汚染したことでよく知られるようになった。周辺土壌は水ガラス(薬液注入)によって土壌が改良されたが、内部には2014年10月現在で、なお11,000トンもの汚染水が溜まっている。この汚染水はタービン建屋から直接流出してきたものであり、高濃度な汚染水が溜まっている。現在ではトレンチが凍土工法によって建屋と遮断され、内部を埋設する工法により、内部の汚染水を除去する対策が始められている。
原子炉内には溶け落ちた燃料が存在し、日々これを冷却している。このため、原子炉から漏れ出した汚染水が原子炉建屋と隣のタービン建屋内に大量に存在する。これに加え、周囲の地下水を建屋内に漏出させることで建屋からの汚染水漏洩を防ぐ対策が取られているため、日々400m3程度の汚染水が増え続けている(中粒砂岩層内の地下水が建屋内に浸入している)。これらを処理してタンクに移すために、一時的にプロセス建屋やHTI建屋も汚染水の保存に利用している。これら建屋内の汚染水は現状で89,300m3程度あると推定されており、今後の処理が急がれる状況にある。
汚染水が最も大量に貯留・保管されているのが陸上のタンクである。放射性物質除去装置(後述)により処理された汚染水が約20万トン、処理を待つ汚染水や処理後の高濃度汚染水が36万トンあるといわれている。周囲の地下水は日量400トン建屋に浸入するわけであるから、年間13万トン程度の汚染水の増加が見込まれる。事故当初に冷却のために発生した大量の汚染水に加えて、事故から3年半以上経過したことを考えると、この値にも納得できる。
廃炉をするためには、最終的に溶け落ちたデブリを回収しなくてはならない。そのために何をどんなステップで考えているかを念頭に置き、地下水の対策を議論したい。全体の廃炉計画は以下のように考えられている。
1)ドライアップ:1号機から4号機の建屋(原子炉建屋とタービン建屋)から汚染水を取り除き、内部に止水工事などを施す。そのうえで、原子炉建屋を補修し、溶け落ちたデブリを冷却するために冷却水が循環できるような構造を取り戻す。このために必要な工事を含め、2020年頃までにドライアップを完成させる予定である。
2)循環冷却:ドライアップの後に汚染水が極端に増加しなくなった状態で、約15年程度の循環冷却を実施し、デブリを回収可能な状態にする。
3)デブリの回収:ロボット技術などの開発を実施し、安全を確保した状態で原子炉内に溜まったデブリを回収する。このために、デブリの状態や存在する場所を確認する技術の開発や硬くなったデブリを分解する装置、回収する装置、回収後の保管方法など、今後開発しなければならない技術や課題は多い。
 現在の状態では、事故後10年でドライアップし、その後15年程度の循環冷却、さらに15年以上かけてデブリを取り出すことにしているが、今後開発しなければならない技術や現状での課題(地下水問題など)も多く、廃炉が今世紀の後半にずれ込むことは必至の状況である。
 このような状況の中での対策と展望について議論したい。