日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS27] 津波とその予測

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*林 豊(気象研究所)、行谷 佑一(独立行政法人 産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

18:15 〜 19:30

[HDS27-P04] 津波即時予測のための線形分散波理論に基づく理論津波波形データベースの作成

*対馬 弘晃1林 豊1馬場 俊孝2安藤 和人3加藤 季広4 (1.気象研究所、2.徳島大学、3.海洋研究開発機構、4.日本電気株式会社)

キーワード:津波即時予測, データベース, 線形分散波理論, 京コンピュータ

沖合で観測される津波波形から津波波源をリアルタイムに推定し,沿岸の津波を即時に予測する手法は,津波が沿岸に来るより前に,津波を精度良く求めるための有効な手段の一つである.気象研究所では,こうした予測を実現するため,tFISH [Tsushima et al., 2009, JGR]を開発し,現在も改良を進めている.本研究では,この予測手法の構成要素の一つであるグリーン関数データベースの高精度化を行う.tFISHでは,地震発生前に,地震発生の可能性がある海域を網羅できるように,多数の要素波源をモデル領域の該当海域に配置し,各波源についての津波伝播計算を行って,各沖合津波計・沿岸地点等における津波波形をデータベース化する.これにより,地震発生後は,データベース内の津波波形を抽出し組み合わせることで,線形の波形逆解析による波源推定や,重ね合わせによる予測津波波形の合成を,短時間のうちに完了させることができる.一般に,沖合を伝播する津波は,線形長波近似でよく再現できるため,これまではこの近似に基づいてグリーン関数を計算していた.しかしながら,近年の沖合津波観測事例の蓄積とその解析によって,沖合津波計の波形を再現する上で,波数分散性の考慮が必要な場合があることがわかってきた [例えば,Saito and Furumura, 2009, JGR].また,分散性を含む観測波形を入力とする波源推定において,線形長波近似に基づくグリーン関数を用いると,分散性を考慮していないことによるモデル化の誤差が,波源推定精度を大幅に低下させることも明らかになっている [Saito et al., 2010, JGR].線形分散波理論に基づく津波計算は,線形長波計算に比べて計算コストが極めて高いものの,データベースとして事前準備しておけば,リアルタイム予測で行う計算は,従来と同じ手順により短時間で完了する.そこで本研究では,観測技術の高度化によって得られた観測データを最大限に活用した津波即時予測の実現に向けて,線形分散波理論に基づくグリーン関数のデータベースを構築する.
線形分散波方程式に基づく津波伝播の数値計算には,Baba et al. [2015, PAGEOPH]によるJAGURSを用いた.JAGURSは,京コンピュータ上でOpenMPとMPIを駆使した並列計算を実施できるようにチューニングされている.本研究では,将来地震発生の可能性がある領域を網羅できるように,千島・日本海溝と南海トラフ沿いの海域に,波源サイズや位置を変えながら合計約3300の波源を配置した.こうした大量の波源に対する津波計算を現実的な時間内で完了できるようにするため,1つのジョブの投入により,すべての要素波源による分散波津波計算を同時に実施できるように設計・実装を行った.1000を超える波源群の津波計算は,ユーザが指定したノード数で波源毎に並列計算され,異なる波源間の同期処理は行われない.南海トラフ沿い領域の合計約1000波源の計算を実施したところ,約4000ノードを同時使用することにより,約20時間ですべての計算を完了させることができた.これらの計算結果は,品質管理のための点検を経て,データベース化される.現在は,南海トラフ沿いの計算を完了し,千島・日本海溝沿いのデータベース作成を進めている.
本研究は,「HPCI戦略プログラム」 (分野3) 防災・減災に資する地球変動予測の補助を受けて実施した.また,本研究の計算には京コンピュータを活用した.