日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT31] 環境トレーサビリティー手法の新展開

2015年5月27日(水) 11:00 〜 12:45 304 (3F)

コンビーナ:*中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、陀安 一郎(京都大学生態学研究センター)、座長:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)

12:15 〜 12:30

[HTT31-06] 鉛安定同位体比分析による近世以前の日本の金属製錬技術解明の可能性

*中西 哲也1申 基澈2井澤 英二3 (1.九州大学総合研究博物館、2.総合地球環境学研究所、3.九州大学)

キーワード:鉛安定同位体, 近世日本, 製錬技術

日本における非鉄金属の生産は674年の対馬における銀の生産が始まりと言われている。以来、日本では国内各地で鉱山開発が積極的に行われてきた。また、新しい製錬技術の導入により金属生産量が増加し、金・銀・銅の輸出は近代日本における資本の蓄積に繋がってきた。
 鉛は近世以前の金属製錬には不可欠な金属であり、16世紀の石見銀山では、銀鉱石に鉛を加えて製錬を行う事で、銀を効率よく生産した。また銅の精錬で用いられた南蛮吹では、銅に鉛を加える事で、金銀等の不純物の分離を行ってきた。 
 本研究では、石見銀山における銀製錬に用いられた鉛の産地を同定する目的で、西日本の鉱山(石見銀山、磯竹鉛山、久喜鉱山、長登銅山、多田銀銅山、小泉鉛山、佐野鉛山)の鉱石および製錬滓(スラグ)試料47点について、総合地球環境学研究所に設置されている二重収束型MC-ICP-MS(NEPTUNE PLUS)を用いて、鉛安定同位体比の分析を行った。
 分析試料の作成は以下の手順に従った。粉末試料約0.1gをフッ酸、過塩素酸、硝酸を用いて酸分解後、蒸発乾固し3.5N HNO3で溶解。Pb濃度約1000ng/mlに調製した溶液試料0.3mlを用い、2mlテフロンカラムにてSpec resin (Sr)およびMGI gel (Pb)を用いてPbを分離。6N HCl(3ml)にて回収し、7mlテフロン容器にて95℃で蒸発乾固。さらに3%HNO3(4ml)を加えて溶解。この内1.5mlを測定用の2ml容器に移し、Tl標準液(920ng/ml)0.13mlを添加し、分析試料とした。
 分析時は鉛同位体比標準試料としてNBS SRM981を用いて分析値を補正した。分析の際の標準誤差(2σ)は、NBS SRM981の繰り返し測定により、206Pb/204Pb(±0.002)、207Pb/204Pb(±0.002)、208Pb/204Pb(±0.005)であった。
 得られた分析値は、各鉱山毎にまとまった分布を示し、特に山陰帯の花崗岩分布域の石見銀山、磯竹鉱山と山陽帯のその他の鉱山では、明瞭に分布が分かれた。石見銀山のスラグの鉛同位体比は、石見銀山の鉱石と近隣の磯竹鉛山の鉱石の値との中間に分布し、製錬の際に磯竹の鉛が使われていた事を裏付けるデータを得た。一方、当初石見銀山の銀製錬に用いた鉛の産地として想定していた久喜鉱山の鉛同位体比の値は、今回分析した石見銀山のスラグ試料の値とは大きく離れ、久喜鉱山の鉛の使用を確認するには至らなかった。最後に、今回の分析の結果では、非常に精度の良い鉛同位体比得られており、今後分析数を増やす事により、スラグ試料毎に原料鉱石や添加した鉛の産地を推定できる可能性が示唆される。