[S-SS29] 断層のレオロジーと地震の発生過程

[SSS29-P15] スメクタイトの摩擦特性における温度と圧力の効果：南海トラフプレート境界地震への影響

ポスター講演3分口頭発表枠

*水谷 知世¹、平内 健一¹、林 為人²、澤井 みち代³ (1.静岡大学大学院理学研究科地球科学専攻、2.海洋研究開発機構　高知コア研究所、3.広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)

キーワード：沈み込み逆断層, デコルマ, 非地震性領域, スメクタイト, 室内実験, 摩擦の速度依存性

海洋プレートが大陸プレートの下に潜り込む沈み込み帯では，逆断層による巨大地震が発生しやすい．この沈み込むプレート境界断層において，100-150℃の温度範囲においてスメクタイトがイライトに遷移することが地震発生帯上限を定義する1つの鍵となっている．もしこの仮定が正しければ，スメクタイトは100-150℃まで摩擦的に安定な挙動（速度強化）を示すことが示唆される．また，スメクタイトは含水し，膨潤する機能を持つため，これについて検証を行う場合，水に飽和した条件で実験を行う必要がある．しかし，モンモリロナイト標準試料を用いた先行研究（Saffer and Marone, 2003, EPSL; Ikari et al., 2007, JGR）は，室温湿潤条件のみで行われており，その摩擦の速度依存性（a-b）は，30 MPa以下の法線応力下で速度弱化を示している．そこで本研究では，水に飽和した条件下において，モンモリロナイトガウジの摩擦実験を行い，摩擦強度とすべりの安定・不安定性に対する温度と法線応力の影響を調べた．
本実験で使用したガウジ試料はNa型モンモリロナイト標準物質である．実験には高知コアセンター設置の三軸圧縮試験機を用い、砂岩供試体にはさんだガウジを有効法線応力10-70 MPa，間隙流体圧10 MPaで，25-150℃，すべり速度0.03-3 μm/sで剪断させた．摩擦係数（μ）は0.056-0.120の範囲をとり， 25℃と60℃では有効法線応力の増加に伴って，摩擦強度が減少した．90℃と120℃では有効法線応力の増加に伴って，摩擦強度が増加した．a-bは，有効法線応力の増加に伴って，25-90℃では段階的に正から負へ，120℃では段階的に負から正になった．
モンモリロナイトのμは，先行研究において湿度が高くなるにつれて値が小さくなることが示されていた．本実験結果は，相対湿度100%時のμと調和的であった．このことはモンモリロナイトのμは100 wt%以上のの影響を受けないことを意味する．また，モンモリロナイトのa-bは，先行研究において湿潤条件では，法線応力の増加に伴って負から正へと遷移する傾向をもつことが示されている．一方，本実験結果では，有効法線応力の増加に伴って，a-b値が正から負へ遷移する傾向を示した．このことは，モンモリロナイトのa-bは100 wt%以上の含水の影響を受けることを意味する．本実験結果から有効法線応力とa-bの関係は各温度条件において線形に表されることが示された．これらの結果を考慮して，南海トラフのプレート境界浅部の非地震性領域に相当する温度圧力条件でスメクタイトのa-b値の推定を行った．その結果，λ = 0.4以上の場合，λ = 0.4の一部領域を除きa-bは速度強化を示した．このことから，南海トラフの非地震性域において、スメクタイトは非地震性物質として振る舞うことが示唆される．