12:25 〜 12:40
[SCG65-12] 疑似点震源モデルによる2014年11月22日長野県北部の地震(M6.7)の強震動シミュレーション
キーワード:疑似点震源モデル, 長野県北部の地震, 強震動, オメガスクエアモデル, フーリエ位相
一般にわが国の強震動予測においては,強震動を生成する矩形のサブイベントを断層面上に複数配した特性化震源モデル(例えば釜江・入倉,1997)が用いられることが多い.それに対し,著者は,従来の特性化震源モデルよりも単純化された新たな震源モデルとして疑似点震源モデル(野津,2012)の提案を行っている.疑似点震源モデルでは,強震動の生成に関わる各々のサブイベントに対し,その内部におけるすべりの時空間分布を詳細にはモデル化せず,各々のサブイベントが生成する震源スペクトルのみをモデル化する.提案モデルでは,サブイベントの破壊に起因する震源スペクトルはオメガスクエアモデル(Aki, 1967)に従うものとしている.提案モデルにおけるモデルパラメターの数は,サブイベント1個あたり,東経・北緯・深さ・破壊時刻・地震モーメント・コーナー周波数の6 個であり,従来の震源モデルに比べ大幅に少なくなっている.また,この震源モデルに基づいて強震動シミュレーションを行う場合には,震源スペクトルに伝播経路特性と経験的なサイト増幅特性を乗じることにより対象地点での地震動のフーリエ振幅を求め,これと対象地点における中小地震記録のフーリエ位相を組み合わせ,フーリエ逆変換することにより,サブイベントからの地震動の時刻歴波形を求めることができる.さらに,複数のサブイベントからの地震動を重ね合わせれば,地震動の全体が求まる.
このような単純化された震源モデルにより,ある程度の精度で強震動が計算できるのであれば,強震動予測における労力が大幅に軽減され,多数のシナリオを考慮した強震動予測などにおいて有用であると考えられる.また,実際に疑似点震源モデルを海溝型巨大地震(野津,2012)やスラブ内地震(長坂他,2014)に適用したところ,その結果はたいへん良好であり,むしろ一般的な特性化震源モデルよりも,観測された地震動のある一面をうまく説明できる場合さえあることがわかっている.
ただし,強震動の生成に関わるサブイベントを点で表現するというモデルの性格上,断層面距離が小さくなるようなケースでは適用性が低下することが当然予想される.従って,海溝型地震やスラブ内地震よりも内陸地殻内地震の場合の方が,本モデルの適用はより難しくなることが予想され,実際の観測記録に照らして,どの程度のシミュレーションができるかを調べておくことは重要であると考えられる.
内陸地殻内地震を対象とした疑似点震源モデルの適用の試みはすでに開始されているが(例えば秦・野津,2012),本研究では,最近発生した2014年長野県北部の地震を対象に疑似点震源モデルを作成し,震源周辺の複数の地点を対象に強震動シミュレーションを実施した.選択したパラメターは次のとおりである.サブイベントの数=1,東経=137.901,北緯=36.722,深さ=4.6km,地震モーメント=2.0E+18 Nm,コーナー周波数=0.25Hz.震源付近の媒質の密度は2.7×103 kg/m3,密度は3.5km/sとした.ラディエーション係数としては全方位への平均値0.63,地震動のエネルギーの水平2成分への分配を表すパラメターであるPRTITN(Boore, 1983)は0.71とした.Q値は既往の研究(佐藤・巽,2002)で求められている値を用いた.位相特性の評価には11月23日12:46に発生した余震の記録を用いた.その結果,いくつかの地点では地震動の再現性に課題は残るものの,震源近傍のK-NET白馬を含め,全体として,作成した疑似点震源モデルは震源近傍の強震動を上手く再現できることがわかった(図にはNGN002,NGN005,NGN007の3地点における速度波形およびフーリエスペクトルの計算結果を示す).今後はさらに他の内陸地殻内地震への疑似点震源モデルの適用性を調べ,その適用限界を明らかにしたいと考えている.
謝辞 防災科学技術研究所の強震記録を利用しました.心より御礼申し上げます.
このような単純化された震源モデルにより,ある程度の精度で強震動が計算できるのであれば,強震動予測における労力が大幅に軽減され,多数のシナリオを考慮した強震動予測などにおいて有用であると考えられる.また,実際に疑似点震源モデルを海溝型巨大地震(野津,2012)やスラブ内地震(長坂他,2014)に適用したところ,その結果はたいへん良好であり,むしろ一般的な特性化震源モデルよりも,観測された地震動のある一面をうまく説明できる場合さえあることがわかっている.
ただし,強震動の生成に関わるサブイベントを点で表現するというモデルの性格上,断層面距離が小さくなるようなケースでは適用性が低下することが当然予想される.従って,海溝型地震やスラブ内地震よりも内陸地殻内地震の場合の方が,本モデルの適用はより難しくなることが予想され,実際の観測記録に照らして,どの程度のシミュレーションができるかを調べておくことは重要であると考えられる.
内陸地殻内地震を対象とした疑似点震源モデルの適用の試みはすでに開始されているが(例えば秦・野津,2012),本研究では,最近発生した2014年長野県北部の地震を対象に疑似点震源モデルを作成し,震源周辺の複数の地点を対象に強震動シミュレーションを実施した.選択したパラメターは次のとおりである.サブイベントの数=1,東経=137.901,北緯=36.722,深さ=4.6km,地震モーメント=2.0E+18 Nm,コーナー周波数=0.25Hz.震源付近の媒質の密度は2.7×103 kg/m3,密度は3.5km/sとした.ラディエーション係数としては全方位への平均値0.63,地震動のエネルギーの水平2成分への分配を表すパラメターであるPRTITN(Boore, 1983)は0.71とした.Q値は既往の研究(佐藤・巽,2002)で求められている値を用いた.位相特性の評価には11月23日12:46に発生した余震の記録を用いた.その結果,いくつかの地点では地震動の再現性に課題は残るものの,震源近傍のK-NET白馬を含め,全体として,作成した疑似点震源モデルは震源近傍の強震動を上手く再現できることがわかった(図にはNGN002,NGN005,NGN007の3地点における速度波形およびフーリエスペクトルの計算結果を示す).今後はさらに他の内陸地殻内地震への疑似点震源モデルの適用性を調べ,その適用限界を明らかにしたいと考えている.
謝辞 防災科学技術研究所の強震記録を利用しました.心より御礼申し上げます.