日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW27] 流域の水及び物質の輸送と循環-源流域から沿岸域まで-

2015年5月24日(日) 16:15 〜 18:00 301B (3F)

コンビーナ:*中屋 眞司(信州大学工学部土木工学科)、齋藤 光代(岡山大学大学院環境生命科学研究科)、小野寺 真一(広島大学大学院総合科学研究科)、知北 和久(北海道大学大学院理学研究院自然史科学部門)、入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、小林 政広(独立行政法人森林総合研究所)、吉川 省子(農業環境技術研究所)、奥田 昇(総合地球環境学研究所)、座長:知北 和久(北海道大学大学院理学研究院自然史科学部門)、小林 政広(独立行政法人森林総合研究所)

17:15 〜 17:30

[AHW27-26] サンゴ礁海域への地下水経由の栄養塩負荷量の推定と富栄養化がサンゴの石灰化に及ぼす影響

*安元 純1安元 剛2廣瀬 美奈3仲本 一喜1中野 拓治1 (1.琉球大学 農学部、2.北里大学 海洋、3.トロピカルテクノプラス)

キーワード:富栄養化, 地下水

近年,世界中のサンゴ礁が地球温暖化や陸域からの赤土や栄養塩の流入など,様々なストレスにより減少している.サンゴ礁が形成される熱帯,亜熱帯の海水は一般的に栄養塩濃度が低く貧栄養であり,富栄養化した海域や水質の悪化した陸水の供給はサンゴの生育にとって不適な環境となる.特にリン酸塩は炭酸カルシウムに吸着しやすい性質を有しており,サンゴの骨格形成を阻害する要因になっている可能性も指摘されている.サンゴに及ぼす栄養塩の影響については多くの研究があるが,未だその解明には至っていない.そこで本研究では,沖縄本島南部地域の米須地下ダム流域において,栄養塩の物質収支の推定を試みると共に,海域へ地下水経由で流出する栄養塩(リン,窒素)負荷量を算定した。くわえて,リン酸塩および関連化合物がコユビミドリイシAcropora. digitiferaのプラヌラ幼生の骨格形成に与える影響を検証した.
調査方法は,本調査地域における地下水中の栄養塩濃度を調べる目的で,2014年3月から2014年11月において,月1回の頻度で定期地下水調査を実施した。NO3--Nの分析には,イオンクロマトグラフ法を用いた。PO43--Pの分析にはモリブデンブルー法を用いた吸光光度分析法を用いた。また,地下水貯水量及び海域への地下流出量の推定には地下水流動モデル(MODFLOW-NWT)を用いた。肥料や畜産由来の栄養塩(リン,窒素)の発生源負荷量の算定には,沖縄県野菜栽培要領(沖縄県農林水産部),農林業センサス(1990-2010)及び糸満市の統計データを参考にした。
サンゴの稚ポリプを用いた生物活性試験では,A. digitiferaのプラヌラ幼生を15ml海水を含むポリプロピレン製試験管で拡散させた後,8穴プレートのカバーガラスに移して,A. digitiferaのプラヌラ幼生をHym-248で刺激しポリプに変態させチャンバースライドに着底させた。その後,海水にNa2HPO4(1~50 μM),NaNO3(1, 10 mM)を溶存させポリプの石灰化の様子を偏光倒立顕微鏡で観察した。
調査地域の土地利用状況(2011年)における農耕地面積660haのうち,花卉類76.11ha,工芸作物405.15ha,野菜類168.16ha及びその他10.58haとなっていた。肥料の年間施肥量は,リン及び窒素それぞれで,36.6t-P/year,161.1t-N/yearとなった。一方,調査地域における家畜は,牛1,076頭,豚4276頭,鶏140,000羽であり,この値を基に推定されるリン及び窒素の年間発生量はそれぞれ,130.20t-P/year,227.42t-N/yearと算定された。地下水調査から得られた調査地域における地下水中の溶存態窒素(NO3--N)及び溶存態リン(PO43--P)の平均値は,それぞれ,8.29 mg-N /L,0.530mg-P/Lであった。次に,調査流域において地下水流動解析を実施した結果,調査地域における地下水貯留量は3.6×107m3,海域への地下水流出量は3.7×104m3/dayと推定された。
以上,得られた結果を基に,調査地域における栄養塩の物質収支を推定した(Fig.1)。なお,作物体における肥料中の栄養塩の吸収量は,リン20%(7.32t-P/year),窒素70%(112.74t-N/year)と仮定した。調査地域の地下水中に溶存している栄養塩量は,PO43--Pが1.9t-P,NO3--Nが302.3t-Nと推定され,リン及び窒素の全負荷量(肥料+家畜)に対して,それぞれ,1.1%,78%に相当した。また,海域への地下水経由の栄養塩負荷量は,PO43--Pが0.7t-P/year,NO3--Nが112.4 t-N/yearと推定され,リン及び窒素の全負荷量に対して,それぞれ,0.4%,29%に相当した。リン酸イオンは,非常に吸着性が強く,土壌や石灰岩に多くの量が吸着されていると考えられる。しかし,本地域の地下水の特徴として,地下水中の浮遊懸濁物質(SS)が多い(平均値:170.3mg/L)ことが挙げられ,SSに対するリン酸イオンの吸着量も多いことが予想される。
サンゴの稚ポリプを用いた生物活性試験から,石灰化面積比の平均がコントロールでは63.2%であったのに対し,Na2HPO4 1μM(PO43--P:0.003 mg/L)で20.4%,50 μM(PO43--P:1.55mg/L)で1.5%と有意な阻害がみられた。しかし,NaNO3 10mM(NO3--N:140 mg/L)では38.7%で有意差はみられなかった。以上の結果,サンゴのポリプの初期の骨格形成の阻害は,硝酸塩に比べリン酸塩の影響が大きいことが明らかになった。