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[PPS22-04] 水熱変成・脱水加熱実験による炭素質コンドライト中に見られるネフェリン形成過程の推定
キーワード:ネフェリン, メリライト, 水質変成, 水熱変成実験, 脱水加熱実験, 炭素質コンドライト
CO、CV隕石には、ネフェリン(NaAlSiO4)やソーダライト(Na4Al3Si3O12Cl)といったNaに富む鉱物が存在し、コンドライト組織全体に分布している(e.g., Kimura et al., 2014; Matsumoto et al., 2014)。これらの鉱物は周囲の鉱物に比べ著しく平衡凝縮温度が低いことから、星雲からの直接凝縮物ではなく、母天体上での水質変成により形成したと示唆されている(e.g., Russell et al., 1998; Tomeoka and Itoh, 2004)。Na元素は、揮発性が高く、水の活動により容易に移動するという特徴から、母天体上の水質変成プロセスを解読する上で重要なトレーサーとなる。ただし、実際の隕石母天体環境を模擬した上で、Naに富む鉱物が生成した実験例はほとんどない。そこで本研究では、ネフェリンの前駆物質とされるメリライトおよび斜長石に対して、pHが異なる様々な溶液を用いて水熱変成実験を行い、隕石母天体における水質変成過程の解明を目指した。
出発物質には、合成メリライト(Ca2Al2SiO7)および天然産の斜長石(Na0.52Ca0.48Al1.48Si2.52O8)粉末試料を用いた。反応溶液には、1N-HCl(pH 0)、H2O(pH 7)0.1N(mol/l)-NaOH(pH 13)、1N-NaOH(pH 14)の4種類を用い、さらにSiO2成分を様々な量比で加えた。各溶液のNa+濃度は1 mol/lになるようにNaClを加え、溶液と試料の体積比(W/R)は10, 100, 1000に調整した。水熱変成実験は小型オートクレーブを使用し、温度200 ℃、圧力約15気圧で168時間行った。回収試料の相同定・組成分析には、X線回折装置(XRD)、走査型電子顕微鏡および透過型電子顕微鏡を用いた。さらに、実験生成物の脱水・相転移過程を明らかにするために、熱重量・示差熱分析(TG-DTA)実験を行った。
メリライトを出発物質としてW/R = 100かつ中性から塩基性の条件で行った実験では、SiO2成分が少ない場合はハイドログロシュラー(Ca3Al2[SiO4]1.6[O4H4]1.3)が生成した。SiO2成分が多い場合は、アナルサイム(NaAlSi2O6・H2O)、ネフェリンハイドレート(Na3Al3Si3O12・H2O)、ベーシックカンクリナイト(Na8Al6Si6O24[OH]2・2H2O)およびトベルモライト(Ca5Si6O16[OH]2・4H2O)が確認された。ネフェリンハイドレートとベーシックカンクリナイトは、溶液のpHが高いほど生成量が増える傾向にある。また、W/Rを10倍(W/R = 1000)にした実験では新たな反応生成物は見られなかったものの、W/Rを0.1倍(W/R = 10)にした実験では、アナルサイムとベーシックカンクリナイトが生成した。酸性溶液(pH 0)を用いると、メリライトが溶解し、二次的な固相生成物は見られなかった。
斜長石を出発物質としてW/R = 100で行った実験では、酸性から中性溶液の条件下において新たな反応生成物はみられなかったものの、塩基性の条件下ではアナルサイム、ネフェリンハイドレートの生成が確認された。ネフェリンハイドレートに関しては、メリライトと同様に、pHの高い条件において生成する傾向がみられた。W/R = 10にしても、生成物の鉱物相組み合わせは変わらなかった。
合成したネフェリンハイドレート(含水量 11 wt %)を対象に、大気圧中5 ℃/minの昇温速度条件においてTG-DTA実験を行ったところ、約100 ℃から結晶構造中のH2Oが脱離し、約800 ℃で脱水反応が完了した。また、DTAおよびXRDの結果から、この昇温速度条件では約800 ℃でネフェリンへの相転移が生じる。また、昇温速度を変えて相転移温度を観測し、相転移に必要な時間と温度の関係を解析したところ、400 ℃に保持された環境において、ネフェリンハイドレートからネフェリンへの相転移は、少なくとも約103年で進行するという結果が得られた。アナルサイム(含水量 8wt%)については大気圧中2 ℃/minの昇温速度条件でTG-DTA実験し、脱水反応は約120 ℃から開始し、約500 ℃ で完了した。少なくとも1000 ℃ の時点でネフェリンと非晶質物質に変成していることがXRDにより判明した。ただし、DTA曲線が示す挙動が複雑で、ネフェリンの転移時間と温度の関係を見積もることはできなかった。
以上の結果から、メリライト・斜長石は、Naに富む中性~アルカリ溶液と反応すると、直接ネフェリンに変成するのではなく、ハイドログロシュラー、ネフェリンハイドレート、アナルサイムといった含水鉱物に変成することが明らかになった。溶液中のSiイオン濃度が高い条件では、アナルサイムが生成し易く、低い場合はAl2O3に富むハイドログロシュラー、ネフェリンハイドレートが生成される傾向にある。また、アナルサイム、ネフェリンハイドレートを加熱脱水した場合では、比較的容易にネフェリンに変化することが判明した。本研究の実験条件は、炭素質コンドライトの母天体においても十分に起こりうる環境である。炭素質コンドライト中のネフェリンも、ネフェリンハイドレートやアナルサイムなどの中間生成物を経由して形成されることが示唆された。
出発物質には、合成メリライト(Ca2Al2SiO7)および天然産の斜長石(Na0.52Ca0.48Al1.48Si2.52O8)粉末試料を用いた。反応溶液には、1N-HCl(pH 0)、H2O(pH 7)0.1N(mol/l)-NaOH(pH 13)、1N-NaOH(pH 14)の4種類を用い、さらにSiO2成分を様々な量比で加えた。各溶液のNa+濃度は1 mol/lになるようにNaClを加え、溶液と試料の体積比(W/R)は10, 100, 1000に調整した。水熱変成実験は小型オートクレーブを使用し、温度200 ℃、圧力約15気圧で168時間行った。回収試料の相同定・組成分析には、X線回折装置(XRD)、走査型電子顕微鏡および透過型電子顕微鏡を用いた。さらに、実験生成物の脱水・相転移過程を明らかにするために、熱重量・示差熱分析(TG-DTA)実験を行った。
メリライトを出発物質としてW/R = 100かつ中性から塩基性の条件で行った実験では、SiO2成分が少ない場合はハイドログロシュラー(Ca3Al2[SiO4]1.6[O4H4]1.3)が生成した。SiO2成分が多い場合は、アナルサイム(NaAlSi2O6・H2O)、ネフェリンハイドレート(Na3Al3Si3O12・H2O)、ベーシックカンクリナイト(Na8Al6Si6O24[OH]2・2H2O)およびトベルモライト(Ca5Si6O16[OH]2・4H2O)が確認された。ネフェリンハイドレートとベーシックカンクリナイトは、溶液のpHが高いほど生成量が増える傾向にある。また、W/Rを10倍(W/R = 1000)にした実験では新たな反応生成物は見られなかったものの、W/Rを0.1倍(W/R = 10)にした実験では、アナルサイムとベーシックカンクリナイトが生成した。酸性溶液(pH 0)を用いると、メリライトが溶解し、二次的な固相生成物は見られなかった。
斜長石を出発物質としてW/R = 100で行った実験では、酸性から中性溶液の条件下において新たな反応生成物はみられなかったものの、塩基性の条件下ではアナルサイム、ネフェリンハイドレートの生成が確認された。ネフェリンハイドレートに関しては、メリライトと同様に、pHの高い条件において生成する傾向がみられた。W/R = 10にしても、生成物の鉱物相組み合わせは変わらなかった。
合成したネフェリンハイドレート(含水量 11 wt %)を対象に、大気圧中5 ℃/minの昇温速度条件においてTG-DTA実験を行ったところ、約100 ℃から結晶構造中のH2Oが脱離し、約800 ℃で脱水反応が完了した。また、DTAおよびXRDの結果から、この昇温速度条件では約800 ℃でネフェリンへの相転移が生じる。また、昇温速度を変えて相転移温度を観測し、相転移に必要な時間と温度の関係を解析したところ、400 ℃に保持された環境において、ネフェリンハイドレートからネフェリンへの相転移は、少なくとも約103年で進行するという結果が得られた。アナルサイム(含水量 8wt%)については大気圧中2 ℃/minの昇温速度条件でTG-DTA実験し、脱水反応は約120 ℃から開始し、約500 ℃ で完了した。少なくとも1000 ℃ の時点でネフェリンと非晶質物質に変成していることがXRDにより判明した。ただし、DTA曲線が示す挙動が複雑で、ネフェリンの転移時間と温度の関係を見積もることはできなかった。
以上の結果から、メリライト・斜長石は、Naに富む中性~アルカリ溶液と反応すると、直接ネフェリンに変成するのではなく、ハイドログロシュラー、ネフェリンハイドレート、アナルサイムといった含水鉱物に変成することが明らかになった。溶液中のSiイオン濃度が高い条件では、アナルサイムが生成し易く、低い場合はAl2O3に富むハイドログロシュラー、ネフェリンハイドレートが生成される傾向にある。また、アナルサイム、ネフェリンハイドレートを加熱脱水した場合では、比較的容易にネフェリンに変化することが判明した。本研究の実験条件は、炭素質コンドライトの母天体においても十分に起こりうる環境である。炭素質コンドライト中のネフェリンも、ネフェリンハイドレートやアナルサイムなどの中間生成物を経由して形成されることが示唆された。