日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS25] 津波堆積物

2015年5月24日(日) 09:00 〜 10:45 201B (2F)

コンビーナ:*後藤 和久(東北大学災害科学国際研究所)、宍倉 正展(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、西村 裕一(北海道大学大学院理学研究院)、座長:後藤 和久(東北大学災害科学国際研究所)、高清水 康博(新潟大学人文社会・教育科学系)

09:30 〜 09:45

[MIS25-03] 和歌山県すさみ町における完新世の古環境変遷と古津波堆積物

*千葉 崇1後藤 和久2藤野 滋弘1横山 祐典3宮入 陽介4沢田 近子4石澤 尭史5西村 裕一6菅原 大助2James Goff7 (1.筑波大学生命環境系、2.東北大学災害科学国際研究所、3.東京大学大気海洋研究所高解像度環境解析研究センター、4.東京大学大気海洋研究所、5.東北大学大学院理学研究科地学専攻、6.北海道大学大学院理学研究院、7.School of Biological, Earth and Environmental Sciences, Univ. of New South Wales)

キーワード:南海トラフ, 紀伊半島, 津波堆積物, 珪藻化石群集, 完新世

紀伊半島の沿岸域には南海トラフ起源の地震に伴う津波が来襲したことが歴史記録と地質記録から明らかにされている.特に,紀伊半島の東岸では志摩半島など複数の地点で津波堆積物が発見され(藤野ほか2008),過去の南海地震との関係が検討されてきた.しかしながら,紀伊半島の西岸においては地質記録が限られており(小松原ほか,2007),津波の波源に関する情報が不足している.一方,南海トラフ起源の地震には紀伊半島南部に通常よりも大きな隆起をもたらすものの存在が示唆されており(宍倉ほか,2008),地震のタイプを推定するためにも過去に起こった地殻変動の復元が急務となっているが,そのための試料が得られる地域は限られている.こうした背景を基に,我々は和歌山県西牟婁郡すさみ町の低湿地においてボーリングコア掘削を行った.本発表では,掘削された長さおよそ800cmのコア試料の分析結果について速報する.
コア掘削地点は,海岸から300mほど内陸に位置する休耕田である.掘削されたコアは,表層から深度150cmまでが耕作土層であるが,150cm~300cmまでの層準は泥炭層~有機質泥層から成り,少なくとも7枚の砂層もしくは砂礫層が狭在する.それより下位は主に泥層からなり,深度680cmから礫層に変化し,深度760cmで基盤に達する.また,深度560~630cmには喜界アカホヤ火山灰が認められた.一方,放射性炭素年代測定の結果,本コア試料はおよそ2000BC~6000BCに堆積したものであることが分かった.
珪藻分析の結果,珪藻群集は岩層の変化に対応して変化していた.下位の泥層からはPlanothidium delicatulumやCocconeis scutelluなどの海生種が多産するが,上位へ向けて徐々にPseudostaurosira属といった汽水生珪藻やPinnularia属といった淡水生珪藻が増加した.特に深度300cm以浅では,Eunotia属やPinnularia属などの淡水生珪藻が優占した.以上のことから,3500BC~6000BCにおいてこの地域には干潟が形成されていたと考えられる.さらにその後,塩性湿地が形成され,徐々に淡水化していった.これらは完新世のいわゆる縄文海進・海退を主に反映していると考えられる.一方で,深度180cm~300cmの有機質泥層からは海生珪藻化石を含む砂層が少なくとも4枚認められた.このことは2000BC~3500BCの期間に少なくとも4回の津波が来襲した可能性を示唆する.