11:15 〜 11:30
★ [HTT32-02] ストリームパワー則に基づく流域地形の分類手法の検討
キーワード:山地流域, 地形分類, デジタル標高モデル, GIS, ストリームパワー則, 菊池川流域
河川は流域ごとの地質・地質構造が大きく異なり,それに対応して河川の物理化学的環境や生態系が異なり,特に,渓流域では,土砂生産源に近く,地質の影響をかなり直接的に受けていると考えられる.
本報告では,国土地理院の10m DEM(デジタル標高モデル)からストリームパワー則をもとに山地流域を計算で分類する手法を提案し,多様な地質が分布する熊本県菊池川流域の上流域に適用した事例を紹介する.
地形におけるストリームパワー則は,一般に(1)式で表現され,河川による浸食速度と流域面積,勾配との関係を示した経験則である.
E = K・Am・Sn (1)
Eは浸食速度(M/T), Aは累積流量あるいは流出寄与域(M2),Sは勾配(M/M)である.K,m,nは長期的には定数として扱われる場合が多い.ここで,(1)式を勾配と流域面積の関係にして,両辺を任意の距離で積分すると標高と累積流量の逆数との線形的な関係を示す(2)式に変換できる.この際,E,Kは任意の定数とし,m,nは文献からそれぞれ1, 0.5を代入する.
Z = (E / K)∫(1 / A)0.5 dx (2)
ここでZはDEMで得られる標高値である.右辺の∫以下は,河道がある標高区間における累積流量の逆数の積算にセルサイズΔxを乗じたもの(以下,χ値とする)になる.また,一般的に用いられる地形量と比較すると,χは流域の河川密度に相当する.なお,今回の計算には,現地で確認できる河道に限定させるため,累積流量が0.5 km2以上のグリッドで行った.さらに,Zとχとの関係から求められる傾きは,E / K 値となる.この値は,浸食速度に関わる値となり,地質によって変化することが期待できる.
次に,本分類手法を熊本県の菊池川流域に適用した事例について紹介する.菊池川流域では,中・古生代変成岩類,中生代花崗岩類,新第三紀安山岩類,第四紀溶結凝灰岩などが分布し,山地上流域では多様な河川環境を形成している.本報告では,この中で,泥質片岩3支流(開山川,後河内川,男岳川東側支流),花崗岩3支流(入道川,中片川,鉾ノ甲川),阿蘇溶結凝灰岩2支流(菊池渓谷北・南側支流)を対象に本分類手法を適用させた結果について紹介する.
計算は,累積流量を0.5〜1 km2, 1〜2 km2, 2〜3 km2および0.5〜3 km2に区切って行った.その結果,累積流量が小さいほど流域地形の特徴が多様になることが確認できた.逆に,2〜3 km2の累積流量が大きい区間では,地質による違いは小さくなった.
その中で,1〜2 km2の累積流量の区間では,いずれの地質の支流においてもZ とχの関係は線形に近づく結果となった.相対標高Zおよびχの最大値の分布は,いずれの地質もZとχの間で正の相関を示したが,その傾向は地質ごとに異なることが確認できた.花崗岩では,χは比較的低く,流域の河川密度は低い傾向にあると考えられる.また,相対標高が大きく,流域の起伏量については,高い傾向にあることもわかる.溶結凝灰岩では,その逆で,流域のχが大きく,相対標高は低い傾向が確認できた.泥質片岩では,その中間的な傾向を示した.また,それぞれの支流のZ とχの傾きから求めたE / K 値は,花崗岩(0.07〜0.30),泥質片岩(0.09〜0.10),溶結凝灰岩(0.04〜0.05)の順に低くなる傾向を示した.
0.5〜1 km2の区間では,Zとχの最大値の分布から,泥質片岩と溶結凝灰岩において,Z とχの関係が異なる傾向を持つ流域が存在することがわかる.その原因として,例えば,泥質片岩の後河内川では,上流域に新第三紀の安山岩がキャップロック状に分布し,河床には,安山岩質の凝灰岩の堆積物が多く確認できている.この安山岩によって,泥質片岩の地形が大きく変化し,この区間の地形の傾向が異なるものになったと思われる.溶結凝灰岩は,柱状節理の発達から,浸食の形態が他の地質と異なっているため,浸食と流域面積との関係が,岩盤が露出する上流域では,特に不明瞭になっているものと思われる.その中で,花崗岩の中片川では,後河内川と同様に安山岩質凝灰岩の巨礫を含む河床堆積物が多く確認できたが,流域地形の傾向に大きな変化はなかった.
今回提案する手法は,地質ごとの流域地形の形態的差異を地形プロセス的に分類しようという試みであり,DEMさえあれば,容易に計算できる方法である.今後は,対象流域を広げ,この手法で求めるE/K値についても,地形プロセス的な意義を検討していく予定である.
本報告では,国土地理院の10m DEM(デジタル標高モデル)からストリームパワー則をもとに山地流域を計算で分類する手法を提案し,多様な地質が分布する熊本県菊池川流域の上流域に適用した事例を紹介する.
地形におけるストリームパワー則は,一般に(1)式で表現され,河川による浸食速度と流域面積,勾配との関係を示した経験則である.
E = K・Am・Sn (1)
Eは浸食速度(M/T), Aは累積流量あるいは流出寄与域(M2),Sは勾配(M/M)である.K,m,nは長期的には定数として扱われる場合が多い.ここで,(1)式を勾配と流域面積の関係にして,両辺を任意の距離で積分すると標高と累積流量の逆数との線形的な関係を示す(2)式に変換できる.この際,E,Kは任意の定数とし,m,nは文献からそれぞれ1, 0.5を代入する.
Z = (E / K)∫(1 / A)0.5 dx (2)
ここでZはDEMで得られる標高値である.右辺の∫以下は,河道がある標高区間における累積流量の逆数の積算にセルサイズΔxを乗じたもの(以下,χ値とする)になる.また,一般的に用いられる地形量と比較すると,χは流域の河川密度に相当する.なお,今回の計算には,現地で確認できる河道に限定させるため,累積流量が0.5 km2以上のグリッドで行った.さらに,Zとχとの関係から求められる傾きは,E / K 値となる.この値は,浸食速度に関わる値となり,地質によって変化することが期待できる.
次に,本分類手法を熊本県の菊池川流域に適用した事例について紹介する.菊池川流域では,中・古生代変成岩類,中生代花崗岩類,新第三紀安山岩類,第四紀溶結凝灰岩などが分布し,山地上流域では多様な河川環境を形成している.本報告では,この中で,泥質片岩3支流(開山川,後河内川,男岳川東側支流),花崗岩3支流(入道川,中片川,鉾ノ甲川),阿蘇溶結凝灰岩2支流(菊池渓谷北・南側支流)を対象に本分類手法を適用させた結果について紹介する.
計算は,累積流量を0.5〜1 km2, 1〜2 km2, 2〜3 km2および0.5〜3 km2に区切って行った.その結果,累積流量が小さいほど流域地形の特徴が多様になることが確認できた.逆に,2〜3 km2の累積流量が大きい区間では,地質による違いは小さくなった.
その中で,1〜2 km2の累積流量の区間では,いずれの地質の支流においてもZ とχの関係は線形に近づく結果となった.相対標高Zおよびχの最大値の分布は,いずれの地質もZとχの間で正の相関を示したが,その傾向は地質ごとに異なることが確認できた.花崗岩では,χは比較的低く,流域の河川密度は低い傾向にあると考えられる.また,相対標高が大きく,流域の起伏量については,高い傾向にあることもわかる.溶結凝灰岩では,その逆で,流域のχが大きく,相対標高は低い傾向が確認できた.泥質片岩では,その中間的な傾向を示した.また,それぞれの支流のZ とχの傾きから求めたE / K 値は,花崗岩(0.07〜0.30),泥質片岩(0.09〜0.10),溶結凝灰岩(0.04〜0.05)の順に低くなる傾向を示した.
0.5〜1 km2の区間では,Zとχの最大値の分布から,泥質片岩と溶結凝灰岩において,Z とχの関係が異なる傾向を持つ流域が存在することがわかる.その原因として,例えば,泥質片岩の後河内川では,上流域に新第三紀の安山岩がキャップロック状に分布し,河床には,安山岩質の凝灰岩の堆積物が多く確認できている.この安山岩によって,泥質片岩の地形が大きく変化し,この区間の地形の傾向が異なるものになったと思われる.溶結凝灰岩は,柱状節理の発達から,浸食の形態が他の地質と異なっているため,浸食と流域面積との関係が,岩盤が露出する上流域では,特に不明瞭になっているものと思われる.その中で,花崗岩の中片川では,後河内川と同様に安山岩質凝灰岩の巨礫を含む河床堆積物が多く確認できたが,流域地形の傾向に大きな変化はなかった.
今回提案する手法は,地質ごとの流域地形の形態的差異を地形プロセス的に分類しようという試みであり,DEMさえあれば,容易に計算できる方法である.今後は,対象流域を広げ,この手法で求めるE/K値についても,地形プロセス的な意義を検討していく予定である.