日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS21] 大気化学

2015年5月28日(木) 09:00 〜 10:45 201B (2F)

コンビーナ:*澤 庸介(気象研究所海洋・地球化学研究部)、竹川 暢之(首都大学東京 大学院理工学研究科)、金谷 有剛(独立行政法人海洋研究開発機構地球環境変動領域)、高橋 けんし(京都大学生存圏研究所)、谷本 浩志(国立環境研究所)、座長:須藤 健悟(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻)

10:30 〜 10:45

[AAS21-12] シベリア森林火災が日本のPM2.5汚染に及ぼす影響

*池田 恒平1谷本 浩志1 (1.国立環境研究所)

キーワード:PM2.5, エアロゾル, 森林火災, シベリア, 越境汚染

シベリア森林火災は微量気体やエアロゾルの重要な発生源であり、長距離輸送によって風下域の大気質に影響を及ぼす。2001年からPM2.5質量濃度の測定が行われている北海道利尻島は、日本の中でもPM2.5濃度が低い地域に位置しているが、特に春季に日平均濃度の環境基準 (35 μg/m3) 超過が観測される年がある。シベリアで大規模な森林火災が発生した2003年5月には、PM2.5濃度が最大108 μg/m3に達するなど、高濃度イベントが複数回観測され、一酸化炭素の濃度上昇も同時に起こっていた。日本の平均的なPM2.5濃度は大陸からの越境輸送の寄与によって、一般に西側ほど濃度が高く、北東へ向かうに従い下がる傾向がある。ところが、2003年5月の月平均濃度は逆の傾向となっており、宮城県箟岳や隠岐よりも利尻のほうが高く、MODISによるエアロゾル光学的厚さ (AOD) でも同じ傾向が確認された。
 領域化学輸送モデルWRFv3.3.1/CMAQv4.7.1によるシミュレーションは、PM2.5濃度を過小評価する傾向があるものの、イベントの濃度上昇のタイミングや時間変動を概ね再現することができていた。モデルの結果によると、高濃度PM2.5気塊は大規模な森林火災の発生していたバイカル湖の東側から中国東北部、ロシア沿海地方を通り、北海道に到達していた。また、衛星観測データAIRSによるCOカラム濃度やMODISによるAODも同様に、汚染気塊がシベリアから北日本に輸送される様子が確認された。北緯40度以北のバイオマス燃焼のエミッション (GFEDv3.1) をゼロにした感度実験を行い、標準実験との濃度差からシベリア森林火災の寄与を見積もった。2003年5月の月平均濃度に対する寄与は、利尻で64%、箟岳と隠岐の双方で45%と算出され、北日本だけでなく太平洋側や西日本の大気環境への影響も示唆された。シベリア森林火災は年々変動が大きく、日本への影響がほとんど見られない年も多いが、大規模な火災があった年には、北日本において短期環境基準値を超えるほどの影響を及ぼすことが示唆された。