日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG35] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2015年5月27日(水) 09:15 〜 10:45 105 (1F)

コンビーナ:*山口 直文(茨城大学 広域水圏環境科学教育研究センター)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、清家 弘治(東京大学大気海洋研究所)、高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、池田 昌之(静岡大学)、座長:山口 直文(茨城大学 広域水圏環境科学教育研究センター)

10:30 〜 10:45

[HCG35-06] 中部中新統土岐口陶土層の古土壌における化学組成と粘土鉱物組成

*葉田野 希1吉田 孝紀2足立 佳子3 (1.信州大学大学院理工学系研究科、2.信州大学理学部地質科学科、3.新潟大学理学部)

キーワード:古土壌, 化学風化, 中新世, 化学組成, 希土類, 粘土鉱物組成

愛知県から岐阜県南東部には,中部中新統の陸成層である土岐口陶土層が分布する (赤嶺, 1954; 中山・陶土団体研究グループ, 1989).本層は主に亜炭層を伴うシルト・粘土層から構成され,世界的にも品位の高いカオリン質粘土資源を産することで知られる (藤井, 1967).このことから,粘土鉱物組成や母岩構成などに着目して,粘土資源の出現要因や粘土化時期の検討がなされてきた (例えばFujii, 1968; 種村, 1964など).しかし,堆積物中に記録される粘土鉱物組成は,母岩構成の他に浸食・運搬・沈積過程における特定粒子の分別作用や堆積後の化学風化などによる影響を受ける.土岐口陶土層中には,過去の地表面において形成される古土壌が保存されており,古風化の影響の特定に期待ができる.そこで今回,土岐口陶土層の砕屑物において,粘土鉱物組成と化学組成,堆積相,古土壌の発達度との関連性について検討を行った.
調査対象として,岐阜県土岐市と多治見市の陶土採掘地帯において,約5 km圏内に位置する3つの鉱山に分布する土岐口陶土層を選定し,現地調査において堆積相解析と古土壌記載を行った.検討鉱山では,15~30 mの土岐口陶土層が露出する.粘土鉱物分析は,2 μm以下の粒子について,EG処理,段階加熱処理,HCl処理,KCl処理を行い,信州大学理学部設置のXRDを使用して粘土鉱物の同定を行った.化学分析については新潟大学理学部設置のICPMSと信州大学理学部設置のXRFを使用した.
堆積相解析の結果,3つの鉱山に分布する土岐口陶土層は,泥基質亜炭層や淘汰の良い粘土層に特徴づけられ,沼沢地と湖の卓越した堆積盆地で堆積していたことが想定される.さらに,全鉱山において,それぞれ約20枚の古地表面と古土壌層が認識できる.これら古土壌層は,最大 50 cm程の厚さで発達し,比較的明瞭な古土壌層位 (A層,B層,C層)を示し,長さ150 cm以上の根化石を産する.鏡下では,土壌化による溶脱と集積を示す集積粘土や土壌団粒構造が顕著に発達する.
各鉱山の土岐口陶土層を構成する粘土鉱物組成は,全層準でほとんど一貫しており,カオリナイトが卓越し,続いて膨潤性粘土鉱物,イライト,緑泥石から構成される.これらは,古土壌層位との明瞭な関係性を示さず,粒度との強い相関を示す.
砕屑物の化学組成から母岩を検討すると,層準毎に母岩組成の違いが認められる.多くの層準の砕屑物のコンドライト規格化REEパターンは,Eu負異常を示す.これより,これらの層準の砕屑物は,主に珪長質な母岩に由来すると考えられる.一方,一部の層準の砕屑物のREEパターンは,Eu負異常が不鮮明で,LREEの傾きが小さく∑REEが高い.この層準では,粘土鉱物組成として,膨潤性粘土鉱物/カオリナイトの比が大きくまた緑泥石を産する.したがって,この層準の砕屑物は,主に安山岩や玄武岩といった苦鉄質な母岩に由来すると考えられる.このような母岩組成の多様性や粒度の違いは,層厚や土層分化の程度などから導きだされる古土壌の発達度との関係性を示さない.また,CIA値 (Nesbitt and Young, 1982, 1984)を用いた後背地における化学風化度の検討からは,土岐口陶土層の砕屑物のCIA値に多様性があるものの,粘土・シルト試料において88~95と総じて高い値を示すことが判明した.古土壌層位内の化学風化度の比較検討では,多くの古土壌層で,地下土壌層準 (B層,C層)よりも表層土壌層準 (O層,A層)において高い化学風化度を示す.
以上の検討より,土岐口陶土層の母岩組成は層準によって多様性をもつこと,古土壌層位の発達度はこれら母岩組成との関連性をもたないこと,粘土鉱物組成が組成比において母岩組成の違いを反映しているものの一貫してカオリナイト主体であること,化学風化度が全層準で高いこと,堆積後にも現地性風化が進行していたことが認識できた.このことは,土岐口陶土層において,異なる母岩をもつ堆積物であっても,後背地風化と現地性風化の著しい進行を示すと考えられる.

文献
赤嶺, 1954, 資源化学研究所彙報, 34, 25-39.
中山・陶土団体研究グループ, 1989, 地団研専報, 36, 237-246.
Fujii, 1968, Rep. Geol. Surv. Japan, 230, 1-15.
藤井, 1967, 地調月報, 18, 1-19.
Nesbitt and Young, 1982, Nature, 299, 715-717.
Nesbitt and Young, 1984, Geochimica et Cosmochimica Acta, 48, 1523-1534.
種村, 1964, 地調報告, 203, 1-40.