日本地球惑星科学連合2015年大会

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ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT26] 地球ゲノム学

2015年5月26日(火) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*遠藤 一佳(東京大学大学院理学系研究科)、小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)

18:15 〜 19:30

[BPT26-P06] Lymnaea stagnalisの貝殻形成におけるWntの役割

*新宮 茜1清水 啓介2遠藤 一佳1 (1.東大・理、2.京大・理)

軟体動物の貝殻は炭酸カルシウムで形成されているため化石として残りやすく、地球環境の変遷のプロキシや生物進化の直接的証拠として研究が続けられている。貝殻形態の進化を明らかにする上では、貝殻の発生や成長に関する知見は欠かすことができない。巻貝類の貝殻成長については、理論モデルについては様々な研究が進んできたが、実際に貝殻成長に関わる遺伝子などの生物学的実態については長年解明されておらず、近年になってようやく研究が進められてきた。その中の重要な研究として、脊椎動物のbmp2/4の相同遺伝子であるdecapentaolegic (dpp)の転写産物であるDpp分子について研究がある。軟体動物では、トロコフォア期に背側に形成される貝殻腺で貝殻形成が開始される。Dppは貝殻腺で発現する遺伝子の1つであり、カサガイでは左右対称に、モノアラガイでは左右非対称に発現することが知られており (Iijima et al. , 2008)、初期発生時と後期成長時でのdppの発現は貝殻が巻くことに必要で(Shimizu et al. , 2011)、Dppの濃度勾配も貝殻の螺旋成長について関与している(Shimizu et al. , 2013)ことから、dppが貝殻形成について重要な因子の1つであることが知られている。本研究では、Dppと並んで重要なシグナル伝達因子であるWntファミリーに注目した。脊椎動物において、背腹軸形成に関与するBmp2/4に対し、直交する前後軸に沿ってWntの濃度勾配が見られ、Wntシグナルが形態形成に重要であることがすでに知られている(Niehrs, 2010)。このWntも貝殻形成の制御に何らかの働きをしているのではないかと推測し、検証することを研究目的とした。研究材料として、軟体動物腹足綱有肺類基眼目のLymnaea stagnalis (ヨーロッパモノアラガイ)を用いた。この卵を5つの発生段階(2細胞期・胞胚期・原腸胚期・トロコフォア期・ベリジャー期)毎に、Wntの阻害剤inhibitors of Wnt response-1 (IWR-1)と促進剤6-bro- mumoindirubin-3’-oxime (BIO)を多様な濃度で使用して機能阻害・促進実験を行い、L. stagnalisの発生過程を観察した。その結果より、L. stagnalisの発生において、Wntシグナルが阻害され活性化されないと、貝殻形成は正常に起こるものの体内組織の形成が正常に開始されないことが観察された。また、反対にWntシグナルが促進されて活性化されると、殻は正常にまかず、平巻になることが判明した。さらに必要以上に活性化されすぎてしまうと分化がうまくできず、殻を含めた体全体の組織の形成が正常に起こらなくなかった。以上のことから、Wntは発生そのものに大きく関与している可能性が高いと考えられる。特に貝殻形成については、ベリジャー期に促進させた場合に観察できた貝殻形態の違いから、殻が巻く速度と成長していく速度に対してWntシグナルの活性度が重要である可能性が示唆される。