日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT31] 環境トレーサビリティー手法の新展開

2015年5月27日(水) 14:15 〜 16:00 304 (3F)

コンビーナ:*中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、陀安 一郎(京都大学生態学研究センター)、座長:中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)

15:18 〜 15:21

[HTT31-P02] 愛媛県西条市の降水の水素・酸素同位体比の時空間変動

ポスター講演3分口頭発表枠

*伊藤 周平1横尾 頼子1中野 孝教2徳増 実3 (1.同志社大学大学院理工学研究科、2.総合地球環境学研究所、3.西条市生活環境部)

キーワード:降水, 酸素同位体比, 水素同位体比

降水の水素同位体比(δD)と酸素同位体比(δ18O)は大気水循環の基盤情報となるため、国際原子力機関などによってδD, δ18O値の全球的変化や広域的変化、またそれらと気象要素(気温や降水量など)の間での有意な関係が報告されている。流域スケールでの大気水循環の実態を明らかにするためには、異なる地点で降水の両同位体比の時空間情報が不可欠であるが、降水試料を継続的に採取することが難しいこともあって研究事例がほとんどない。
流域における降雨過程の実態解明に向けて、四国最高峰の石鎚山地を有する愛媛県西条市において、6地点で月別降水を採取しδD, δ18O値を測定した。その結果、数100km2の範囲でも、降水同位体比が不均質であることが明らかとなった。この不均質性は、雨をもたらす雲の起源や発生のプロセスのほか、雲内部や雲から降水として地表に落下するプロセスも関与している可能性がある。これらの点を明らかにするため、月別降水の両同位体比の経年変化を標高の異なる地点で比較した。
各月の降水の両同位体比の傾きは、各地点とも8前後で一定している。一方、重水素過剰値(d値)は、日本の他地域の降水と同じ様に、冬季(11月~2月)は高く(20~30‰)、夏季は低い(3~10‰)。昨年度も報告したが、成就社(標高1280m)は他地点に比べてd値が高く、とくに春から秋にかけて3~10‰ほど高い。河川水のd値も成就社南東部の山地域で高く、降水の不均質性が存在する可能性を支持する。詳細に検討した結果、もっとも標高が低い市役所(20m)の降水に比べて、成就社の春(4月~5月)の降水は高いd値と共に、δ18O値は3‰程度、δD値は20‰程度低い。これに対して、夏から初秋にかけては、δ18O値の低下は1‰程度、δD値は10‰以下と小さく、季節による明瞭な違いが認められる。再蒸発した水蒸気が寄与した場合には、d値が高い降水が生ずる。したがって、成就社の春の雨の特徴は、植物から蒸散した水蒸気の影響が考えられるが、両地点の降水量の違いと有意な差は認められず、さらなる検討が必要である。一方、冬季の市役所の降水は、低いd値、高いδD・δ18O値を示し、雲から雨滴が落下する過程での再蒸発による可能性が考えられる。