18:15 〜 19:30
[SSS30-P10] 稠密合同余震観測データを用いて推定した2008 年岩手・宮城内陸地震余震の応力降下量:断層強度との比較
キーワード:応力降下量, 応力テンソルインバージョン, 摩擦強度, メカニズム解
地震は、地球内部で増加した偏差応力を急激な食い違いにより解消する自然現象である。この際に、断層面に沿って減少するせん断応力の大きさは、地震学的に推定可能であり、応力降下量と呼ばれている。応力降下量は、地震サイクルを考える上で重要なパラメータの一つであると言える。しかしながら、その推定のために多くの仮定を必要とすることや、計算に必要とするコーナー周波数の誤差の影響が大きいことなどの理由で、一般に精度の高い推定が困難な量でもある。そのため、地震時の応力降下量の大小が何に規定されているのかどうかは、それほど良く分かっていない。
応力降下量について、一つ予想されるのは、地震が発生する際のせん断応力・断層強度の絶対量と関係する可能性である。実際、応力降下量が、断層の摩擦強度を低下させる間隙水圧が高いと予想される熱水地域に近づくほど低くなると言う報告もある (Chen and Shearer, 2011)。通常、摩擦強度の推定も非常に困難であるが、応力場が均一とみなされる領域内では、メカニズム解が示す震源断層の向きからその相対的な大きさを見積もることができる。
本研究では、本震発生から半年間、合同稠密余震観測網が展開されていた 2008年岩手・宮城内陸地震震源域で発生した余震に対して、稠密地震観測データを用いた multi-window スペクトル比法 (Imanishi and Ellsworth, 2006)により、応力降下量の高精度推定を行い、摩擦強度との比較を行う。震源域の応力方向は、Yoshida et al., (2014a, EPS), Yoshida et al., (2014b, JGR)により推定されている。Yoshida et al., (2014a, EPS)では、応力テンソル・インバージョン法に基き、震源域全域の応力状態を一様と仮定 (応力A)、あるいは水平方向に20 分割し(応力B)、そのそれぞれの応力方向の推定を行っている。また、Yoshida et al., (2014b, JGR)では、メカニズム解の位置ごとに周辺の応力方向を推定し (応力 C)、さらに本震前後の主応力軸の回転に基づき、偏差応力テンソルの推定も行っている (応力 D)。
応力降下量を推定する対象としたのは、震源域で発生したM(JMA) > 1.0の地震である。まず、観測速度波形3 成分それぞれに対し、S 波到達の 0.2 秒前から2 秒間を取った時間窓を後方に1 秒ずつずらしながら、3つの波形窓を得た。そして、その各々に対して速度スペクトルを計算した。ここで、ノイズの指標として、P波到達前の波形から同様にして求めたスペクトルを用いることにし、マグニチュードから予想されるコーナー周波数付近でS/N > 5以上のスペクトルのみをデータ・セットに加えた。次に、スペクトルを求めた各地震 (master event)に対して、1 km の範囲内の別の地震(slave events)との間に、各観測点のスペクトル比を計算した。その際、震源には、Yoshida et al. (2014)により、臨時観測点を用いたDouble-difference 法により再決定された位置を用いた。各観測点に集積したスペクトル比をスタックした後、Boatwright (1978)により求められた理論スペクトル比とのフィッティングにより、master eventとslave eventsそれぞれのコーナー周波数を求めた。この際、二つの地震の地震モーメントが近い、またはフィッティングが悪くコーナー周波数が不明瞭であった結果はデータ・セットから除外した。そして、各master eventに対して得られたコーナー周波数を用いて、Sato and Hirasawa (1973), Eshelby(1957)による関係式に基づき、応力降下量の推定を行った。その結果、761 個の地震に対して、応力降下量を求めることができた。推定された応力降下量の平均値は 5.1 MPa, 中央値は 4.5 MPa である。個々の応力降下量の推定値はばらつくものの、平均的な応力降下量は、深さと共に増加する傾向が見られた。
断層強度と応力降下量の比較を行うために、まず、応力 A, B, Cの主軸方向・応力比を用いて、各地震断層面の摩擦強度の相対値を見積もった。そのいずれの場合も、相対的な摩擦強度の大きさが増加するほど、平均的な応力降下量も増加する傾向が得られた。さらに、応力 Dの偏差応力テンソルを用いて、各地震断層面の摩擦強度を求め、同様の比較を行った。この場合も、摩擦強度の増加に従い平均的な応力降下量も増加する傾向が得られた。これらのことは、地震時の断層面上の応力解放量が、その摩擦強度・せん断応力の大きさと相関することを意味すると考えられる。
応力降下量について、一つ予想されるのは、地震が発生する際のせん断応力・断層強度の絶対量と関係する可能性である。実際、応力降下量が、断層の摩擦強度を低下させる間隙水圧が高いと予想される熱水地域に近づくほど低くなると言う報告もある (Chen and Shearer, 2011)。通常、摩擦強度の推定も非常に困難であるが、応力場が均一とみなされる領域内では、メカニズム解が示す震源断層の向きからその相対的な大きさを見積もることができる。
本研究では、本震発生から半年間、合同稠密余震観測網が展開されていた 2008年岩手・宮城内陸地震震源域で発生した余震に対して、稠密地震観測データを用いた multi-window スペクトル比法 (Imanishi and Ellsworth, 2006)により、応力降下量の高精度推定を行い、摩擦強度との比較を行う。震源域の応力方向は、Yoshida et al., (2014a, EPS), Yoshida et al., (2014b, JGR)により推定されている。Yoshida et al., (2014a, EPS)では、応力テンソル・インバージョン法に基き、震源域全域の応力状態を一様と仮定 (応力A)、あるいは水平方向に20 分割し(応力B)、そのそれぞれの応力方向の推定を行っている。また、Yoshida et al., (2014b, JGR)では、メカニズム解の位置ごとに周辺の応力方向を推定し (応力 C)、さらに本震前後の主応力軸の回転に基づき、偏差応力テンソルの推定も行っている (応力 D)。
応力降下量を推定する対象としたのは、震源域で発生したM(JMA) > 1.0の地震である。まず、観測速度波形3 成分それぞれに対し、S 波到達の 0.2 秒前から2 秒間を取った時間窓を後方に1 秒ずつずらしながら、3つの波形窓を得た。そして、その各々に対して速度スペクトルを計算した。ここで、ノイズの指標として、P波到達前の波形から同様にして求めたスペクトルを用いることにし、マグニチュードから予想されるコーナー周波数付近でS/N > 5以上のスペクトルのみをデータ・セットに加えた。次に、スペクトルを求めた各地震 (master event)に対して、1 km の範囲内の別の地震(slave events)との間に、各観測点のスペクトル比を計算した。その際、震源には、Yoshida et al. (2014)により、臨時観測点を用いたDouble-difference 法により再決定された位置を用いた。各観測点に集積したスペクトル比をスタックした後、Boatwright (1978)により求められた理論スペクトル比とのフィッティングにより、master eventとslave eventsそれぞれのコーナー周波数を求めた。この際、二つの地震の地震モーメントが近い、またはフィッティングが悪くコーナー周波数が不明瞭であった結果はデータ・セットから除外した。そして、各master eventに対して得られたコーナー周波数を用いて、Sato and Hirasawa (1973), Eshelby(1957)による関係式に基づき、応力降下量の推定を行った。その結果、761 個の地震に対して、応力降下量を求めることができた。推定された応力降下量の平均値は 5.1 MPa, 中央値は 4.5 MPa である。個々の応力降下量の推定値はばらつくものの、平均的な応力降下量は、深さと共に増加する傾向が見られた。
断層強度と応力降下量の比較を行うために、まず、応力 A, B, Cの主軸方向・応力比を用いて、各地震断層面の摩擦強度の相対値を見積もった。そのいずれの場合も、相対的な摩擦強度の大きさが増加するほど、平均的な応力降下量も増加する傾向が得られた。さらに、応力 Dの偏差応力テンソルを用いて、各地震断層面の摩擦強度を求め、同様の比較を行った。この場合も、摩擦強度の増加に従い平均的な応力降下量も増加する傾向が得られた。これらのことは、地震時の断層面上の応力解放量が、その摩擦強度・せん断応力の大きさと相関することを意味すると考えられる。